この号の内容
1 甲状腺検査を正確に行わない福島県・県立医大批判
2 8・5~6ヒロシマ国際反戦共同行動に参加して
3 第32回福島県民調査検討委員会傍聴記
4 松江寛人先生の偲乙会が盛大に行われる
5 被曝・診療月報のバックナンバー紹介
何故、県・県立医大は、検査結果を正確に調べないのか?
一安倍の“復興オリンピックを手助け!!
ふくしま共同診療所院長 布施幸彦
9月5日に、福島県県民健康調査検討委員会(以下検討委員会)が行われた。小児の甲状腺検査は2011年度に1巡目が始まり、2017年度までで3巡目が終了しているが、今回の検討委員会で3巡目の最終結果が報告された。まず今回の検討委員会で発表された3巡目の検査結果を見てみよう。
〇3巡目の検査結果
対象者336、669入の内、受診者217、506入(64.6%)。異常なしのA判定2↓5、990入(99.3%)、異常ありのB判定1、482入(0.7%)、癌疑いのC判定O入。二次検査の対象者はB判定以上なのでユ、482入だが、913入(61.6%)が二次検査を受け、結果確定者826入(90.5%)で、再度B判定と確定した者は740入(89.6%)。その中で悪性が疑われて穿刺細胞診を受けた者は45入(6j%)。穿刺細胞診の結果、悪性ないし疑いが15入(男6入、女5入、震災当時の年齢6~16歳)見つかり、11人が手術し癌と確定した。
次に1~3巡目の検査結果で分かったことを見ていこう
○受診率
1巡目81.7%(年齢階級別受診率0~5歳85.7%、5~10歳95.8%、11~15歳83.1%、16~18歳52.7%)、
2巡目71.0%(2~7歳78.9%、8~12歳93.3%、13~17歳86.9%、18~22歳25.7%)、
3巡目64.6%(7歳以下74.0%、8~12歳90.2%、 13~17歳82.2%、18歳以上16.4%)。
受診率の推移で分かることは、検査毎に約1割低下しており、その中でも特に高年齢者の受診率の低下が著しい。高校を卒業した子供たちは16.4%しか受診していない。逆に言えば学校検診が行われている世代は、8割以上が検査を受け続けている。18歳以上の受診率を上げることも大事だが、学校検診の継続が鍵なのだ。だから検討委員会や甲状腺評価部会(以下、評価部会)で甲状腺検査を自主検査にして実質上縮小するために、高野徹委員らは学校検診の中止を声高に主張した。それに対してふくしま共同診療所も含めて多くの県民が県当局に「学校検診の継続」を要求したため、6月18日の検討委員会と7月8日の評価部会では「学校検診の継続」を主張する委員の発言が相次いだ。
○学校健診をめぐる論議
検討委員会では春日文子委員が「県の事業として始めた検査であり、結果も情報も県民のものだ。分かりやすく、なるべく早く県民に知らせるべき」と発言。
評価部会では、高野徹委員らが「超音波検査が健康上の利益を受けられるという証拠はなく、白覚症状のない甲状腺がんを早期発見しても予後の改善が期待できない」「若年者のうちからがん患者とみなされることにより社会的・経済的不利益が生じる」と甲状腺検査デメリット論を展開したのに対して、吉田明委員(神奈川県予防医学協会)は、甲状腺専門病院である野口病院142例(1961~2005年)、隅病院110例(1987~2007年)、伊藤病院227例(1979~2012年)の若年者甲状腺がんの多数例を紹介し「頭部リンパ節転移のあるもの、腫瘍径の大きいもの、16歳未満のもの、被膜外浸潤のあるものは、再発の危険因子となり、予後が良いとは言い切れない。微小がんといえども気管や反回神経への浸潤が懸念されるものは、細胞診を行い、手術すべき」「超音波検査は早期発見に有効」であると反論している。
複数の委員も学校検診の継続を強く求めるようになったため、学校検診を早急に中止することは出来なくなった。そのため検討委員会は、甲状腺超音波検査の「同意書」を改悪して本人や保護者に学校検診を拒否させるような方向に転換したようだ。拒否者が多くなれば、PTAが学校検診の中止を要求するということも起こりえる。そして実質的に学校検診を崩壊させるというシナリオだ。
学校検診にデメリットかおるという議論こそおかしい。彼らが主張している「過剰診断」のことだが、甲状腺倹査をすることは過剰診断でもなく、デメリットも全くない。甲状腺検査で癌を見つけることと、その癌をどのように治療するかは全く別な問題。治療方法について医学的に議論をすることは重要だとは思うが、検査をしないで癌を放置するという選択は間違っている。
○穿刺細胞診
穿刺細胞診の割合だが、1~3巡目までのB判定の割合は0.7~0.8%と変わっていないにも関わらず、細胞診は1巡回27.4%(574人)、2巡目11.3%(207人)、3巡目5.4%(45人)と検査毎に低下している。
細胞診の割合の減少について県立医大は「細胞診の適否は対象者(保護者)の希望を踏まえて判断しているが、検査初年度の平成23年度は不安が最も高く細胞診を希望する方が多かったこと、2巡目以降の検査で細胞診の適応と判断された場合でも1巡回の検査において細胞診の結果が出ており超音波検査所見で変化が見られない場合は細胞診を行わないことなどの影響が考えられる」と説明した。しかし検討委員会で清水一雄委員は「穿刺細胞診の割合がかなり減っており、25歳の節目検査ではB判定31人に対して1人も実施していない」と指摘している。二次検査の時点で細胞診をせずに経過観察中に細胞診を行って癌と診断しても集計数に反映されない。経過観察者は2700人以上で、意図的に細胞診を経過観察後に引き伸ばしていると可能性が高い。
○悪性ないし疑い及び手術の件数
1~3巡目までを合わせると悪性ないし疑いが202名(男79人、女123人)、手術した者165人(癌164、良性1人)となる。その上で、7月8日に行われた評価部会で、この集計に漏れた子供たちが11人いることが発表されている。それを含めると213人が悪性ないし疑いで175人が癌と確定した。
この数が正確かというと実はもっと多いことも分かっている。県立医大以外の医療機関で実施された手術数が2015年に7例あったが、それ以降も7例のまま増えていないことである。県立医大以外の手術数が変わっていないことについて、県立医大は「倫理上把握は不可能」「今後も他施設での甲状腺がんの把握は行わない」と返答した。
つまり実際はもっと多いことを県立医大も認めたということだ。これに対して環境省の梅田珠実環境保健部長は「甲状腺がんの把握について全体性がなかなか見えない」「他施設の手術症例については、難しいので集めないというのは初めて聞いた」「であれば、出来ないではなくて、全体性を把握するにはどうしたらいいのか、いろいろ工夫していただきたい」と苦言を呈した。
がん登録やDPC(診療群分類包括評価)を行っている大きな病院は甲状腺癌を含め、すべてのデータが県や国に報告されている。そのデータを使えば小児甲状腺がんの数の把握はもう少し正確になる。それさえ県立医大はする気がない。いや意図的に数を隠そうとしている可能性が高い。甲状腺検査、特に学校検診を続ければ続ける程、小児甲状腺がんば増え続ける。
そうなれば何時までも「小児甲状腺がんば放射能の影響ではない」と主張しにくくなり、東京オリンピック誘致の際の安倍首相の「健康問題については、今までも現在も将来も全く問題ない」という発言がウソであることが国際的に認知され、2年後に行われようとして東京オリンピックは破産してしまう。改めて言うが、すべての鍵は学校検診の継続にある。学校検診を維持するために、県・県立医大・検討委員会・評価部会を監視し続けよう。
最後にベラルーシ共和国の甲状腺学の第一人者であるユーリ・デミチク医師の言葉を引用しよう。
『子供の甲状腺がんはリンパ節転移する確率が高いのが特徴。ベラルーシ共
和国で手術せず様子をみた例と、手術をした例とでは、子供の寿命は格段に
違った。手術すれば、ほとんどの場合、高齢者になるまで健康に生きることが出来る」「見つけなくていいがんを見つけた、なんて言ってはいけない。見つけたがんは必ず手術した方がいい。数年経過を見たこともある。すると、次にする手術は大きい手術になった」「だから、見つけたがんは直ぐに手術した方がいい。それが30年間チェリノブイリで甲状腺がんと闘ってきた自分の考えだ」
まとめ
〇3巡目の検査結果
対象者336,669人、受診者217、506人(64.6%)。
A判定215,990人(99.3%)、B判定1,482人(0.7%)、C判定0人
二次検査
対象者1、482人、受診者913人(61.6%)
結果確定者826人(90.5%)再度B判定740人(89.6%)
穿刺細胞診45人(6.1%)
悪性ないし疑いが15人
(男6人、女5人、震災当時の年齢6~16歳)
11人手術(癌と確定)
〇1~3巡目の検査結果のまとめ
★受信率
1巡目81.7%(年齢階級別受診率0~5歳85.7%、5~10歳5.8%、11~15歳83.1%、16~18歳52.7%)
2巡目71.0%(2~7歳78.9%、8~12歳93.3%、13~17歳86.9%、18~22歳25.7%)
3巡目64.6%(7歳以下74.0%、8~12歳90.2%、13~17歳82.2%、18歳以上16.4%)。
★穿刺細胞診
1巡目27.4%(574人)、2巡回11.3%(207人)、3巡目5.4%(45人)
★悪性ないし疑い及び手術の件数
1巡目 116人(102人手術-1人良性)
2巡目 71人(52人手術)
3巡目 15人(11人手術)
合計 202人(165人手術-1人良性)