被曝・診療 月報 第38号  大規模感染と医療従事者

この号の内容

1 大規模感染と医療従事者
2 3・11反原発福島行動20に参加して
3 説明のつかない矛盾に逢着し焦り深める「検査打ち切り派」
4 子ども脱被ばく裁判での郷地秀夫医師の証言に注目
5「義兄の死にも放射能が影響?」

 

大規模感染と医療従事者

本町クリニック院長 杉井吉彦

東日本大震災と福島第一原発事故から9年が経過し、「復興オリンピック」が、「福島はアンダーコントロールされている」との安倍誘致発言のもと開催されようとしました。
1月からの中国・武漢から発生した「新型コロナウイルス(COVID-19)感染」が世界的な規模で波及し、感染者35万人、2万人の感染死の増加の勢いは加速しつつあります。
日本においては、「クルーズ船感染」から始まり、無茶で予防処置をしない休校命令・強引で強権的な「措置法」改定にかかわらず、全く危機的状況は回避できずに、大規模感染が現実味を帯びつつあります。
このような事態から、思うことは、
①現代社会は、極めて脆弱なものとなっており「人々の健康と命を守る」という課題に対して、ほとんど無防備で、このようなパンデミックは予想されていたにもかかわらず、拡大を止められずにいる(アメリカの毎年のインフルエンザの死亡数や、イタリアのコロナ死亡率の高さなどから、明らかなように、「医療崩壊」がすでに進んでいたと事の証拠だとの指摘は妥当だと思われる)。
②東京においてコロナウイルス感染の対処・治療の中心になっているのは都立病院です。経費削減を最優先とした、「地方独立行政法人化」(東京以外でも進んでいるが)などは、公立病院の存在が支えになっている「公的医療」の重要性を無視した政策であることを、真に証明したといえます。
③感染が広がる中、世界中の医療従事者は、必死に職場で「命を守る」行動をとっています。中国では、命がけで、政府当局の抑制・弾圧を打ち破り感染の事実を公表した医師(狭い専門性を超えて告発した)がいます。韓国テグ市の医師団が、「感染者の早期発見と適切な医療のための物的人的支援の拡充を求める」声明を発表しています。それには「体制の整備。感染症に弱い弱者への迅速な対応。医療労働者を感染の危険から防護し、非正規職者が防護処置において差別的待遇を受けないようにする事」など極めて示唆に富んでいます。
④この韓国における、一日一万件を越えるPCR検査で、潜伏期・軽症者を発見し、早期治療に結びつけた。日本では、明らかに、「検査しないことで感染者数を極力少なく見せようとした」=「東京オリンピックの開催に支障をきたす」といわれても仕方がない状況を作りました。地域のクリニックの医師が「今すぐ検査が必要」と保健所に報告しても、検査を断られる事態が頻発しました。高熱が続いても「自宅安静」を続けよと「殺到して混乱する」との理由のみで、検査を抑制しました。ようやく検査の保険適用を決定して安倍首相は「全国どこの医療機関でも可能となった」と発言し、実際の検査機関との準備を全くせず、現実的に実施できないまま、医療機関で検査を求める人々との間で、無用なトラブルを頻発させた責任は、極めて重い。きちんと政府との交渉を行わないで、右往左往した日本医師会の責任も大きいと思います。
まだまだ、情勢は予断を許しません。感染の爆発をなんとしても停止、収束させねばなりません。世界的にみて、「先進国」以外の地域の感染進行は、もっと悲惨な状況になるのではないかと危惧します。感染の長期化も予想されます。
オリンピックの延期も決定しました。数(4~5)千億円もの追加が必要になるとのことです。何が「復興オリンピック」なのでしょうか。世論調査でオリンピック「中止」に賛成するが人々が15%を超えています。
3.11反原発福島行動は600名の規模で「オリンピックをやっている場合か」の声をあげています。3月には「常磐線」の全線開通を強行し、放射能汚染水海中投棄の決定しようとしています。避難者から住宅を取り上げるため、県は「訴訟」を頻発して追い出そうとしています。
「リーマンショックを超えるコロナショック」の事態の進行は、3.11大震災と原発惨事で「生き方を変えた」人々が多かったように、すべての医療従事者に対して、一つ一つの現場の医療の中身と質を問われる状況(経済状況も激変する可能性もあり)だと思われます。現実を直視し、「命と健康を守る」とは何かを、変えなければならないものは何かを、問い行動せねばならないと考えます。         (2020年3月26日 記)