被曝・診療 月報 第41号 9年半過ぎても解決しない福1事故

この号の内容

1 9年半過ぎても解決しない福 一事故
2 震災から9年半を迎えて思うこと
3 放射能低線量被曝とトリチウム汚染
4 黒い雨・広島地裁判決に想う
5 ふくしま共同診療所と共にあゆむ会第2回総会報告

9年半過ぎても解決しない福一事故

ふくしま共同診療所院長布施幸彦

9月11日で9年6か月が経過しました。福島民報は、9月2日から10回連続で特集記事を載せました。 福島の現状が垣間見えるので、幾つか紹介します。

汚染水の海洋放出はさせない

福島第一・第二原発の項では、放射性物質トリチウムを含んだ処理水(汚染水)の取り扱い方針が決まらず、貯蔵タンクの容量が限界に近づき、政府の判断が焦点になっていると、報道しています。政府小委員会は汚染水の処理方法として、「海洋放出」を提言し、政府は5回にわたり県内外で意見聴取会を開きました。

県内21市町村議会・農業団体・漁業団体・流通団体は汚染水の海洋投棄に反対し、保管継続を求めています。安倍首相は退陣しましたが、菅新首相が反対を押し切って「海洋放出」の方針を出すのではないか、と懸念されます。

困難な中、避難生活を続ける

避難生活の項では、県内外への避難者数は3万7,299人(県外2万9,706人、県内7,580人、不明13人で、2012年の12万7,566人に比べ大幅に減ったと、報じています。また災害直接死と関連死については、直接死1,605人・関連死2、312人と関連死が今なお増え続け、自殺者も118人と被災3県で最多となっている、としています。9年半が過ぎてもまだ県外避難を続けている人たちが、2万9,706人います。

県外に避難して住民票を住んでいる町に移動すると県外避難者とは認定されなくなるので、住民票を福島に残し、住宅追い出しや経済的困難に負けずに9年半闘ってきたのです。彼らの聞いに感動と尊敬の気持ちを抱くと共に、県内に残っても震災(原発事故)のために無念に亡くなっていく人々が今でも多数いることに、怒りを覚えます。

 小児甲状腺がんの全貌を隠蔽

健康・放射線管理の項は小児甲状腺がんがメインテーマです。8月31日に福島県県民健康調査検討員会が行われました。その会議で、2018年度から始まった4巡目の甲状腺検査が新型コロナの影響で3月から実施出来ず、9月以降に順次行うことが決まりました。

今年3月から実施を見合わせていた学校での検査については、今年度415校で計画していた甲状腺検査の内、257校での検査を来年度以降に見送ることになり、今年度の対象者は約9万人から約2万人と4分の1以下に減ることになりました。しかしコロナ禍は継続しており、今まで通りに学校での甲状腺検査が行われる保証はありません。

今回の検討委員会では、小中学校や高校などで一斉に行う検査について、県職員が県内20校程度を訪問し、検査状況を視察し、検査を受ける選択の自由が担保されているかなどについて聞き取ると共に、保護者らの認識を調査することが決まりました。また学校での甲状腺検査が主に授業時間に行われ、ほとんどの児童や生徒が参加していることから、一部の委員からは検査を受けるかどうかを子供が決められるよう、授業以外の時間に行うことを求める意見などが出されました。次回の検討委委員会までに聞き取りする保護者の規模や具体的な手法、実施時期を検討し、提案することになりました。

甲状腺検査の受診率は、1巡目81,7 %、2巡目71.0%、3巡目64.7%、4巡目61.4 %と低下し続けています。しかし学校検診が行われているので、この程度で済んでいるのです。「学校検診を止めたい」が検討委員会の一部委員の本音です。今回の決定は、コロナ禍を理由に学校検診を縮小させ中止に追い込むための布石です。

また小児甲状腺がんに関しては、甲状腺がんないし疑いとされた人は245入(手術でがんと確定した入199入)と発表されました。
しかし甲状腺腫瘍があり保険診療で経過を見ている「甲状腺がん予備軍」が4,000入以上いると言われています。経過観察中の彼らが手術でがんと確定しても、この県民健康調査の甲状腺がん数には合算されませんので、実際の数はもっと多いことが分かっています。学校検診の継続と小児甲状腺がんと確定したすべての数の公表が絶対必要です。

最終処分場決まらず、宙に浮く汚染物質

中間貯蔵・環境再生の項では、中間貯場施設(大熊町と双葉町)への除染廃棄物の輸送が、計画全体の6割を超え、2021年度未に完了すると、報じています。除染廃棄物は、中間貯場施設への搬入開始から30年以内に県外の最終処分場へ移すことが法で決まっています。搬入開始からすでに5年経過しようとしていますが、未だに最終処分場は決まっていません。大熊・双葉町は、最終処分か法定通りに実施されない限り「町内全域で居住環境整備の見通しが立たない」と、最終処分場を決めるように国に要請しています。

全量全袋検査中止で、汚染の実態が不明に

農林水産業再生の項では、農業に関して、産出額は風評などの影響で大きく落ち込んだが、現在は震災前の9割程度まで回復している、としています。さらに米に関して、今までは放射能汚染の程度をすべての米で測定(全量全袋検査)していたが、今年8月24日から避難区域12町村以外では抽出検査に移行した、と報じています。全量全袋検査で安全を確保していたのに、抽出検査ではすり抜ける可能性があります。また食品衛生法の基準(1kg当たり100ベクレル以下)も問題で、100ベクレル以下なら安全だという根拠はありません。全量全袋検査を行い、どれ位の放射能汚染があるのかを、たとえ数ペクレルであっても表示し消費者に判断してもらうことが必要だと思います。

漁業に関しては、試験操業における国の出荷制限が全て解除され、本格的な操業再開に向けて歩みだしているが、未だに震災前の2割に達していない、と報道しています。徐々に漁獲量を増やしていこうとしていますが、汚染水の海洋投棄が決まれば、すべてご破算です。海洋投棄は絶対に認められません。

事故の責任から逃げ回る国と東電

賠償の特集では、東京電力が、県が要求した損害賠償額191億5千万円に対して107億5千万円(56.1%)、市町村が要求した賠償額1361億8,286万円に対して428億1191万円(31.4%)しか支払っていないこと、理由として、政府内に置かれた原子力損害賠償紛争審査会の指針を上回る賠償を拒否しているため、と報じています。また原発事故の裁判外紛争解決手続き(ADR)を巡り、和解案の提示に至る審理期間が2019年までの6年間で2倍以上に伸びたこと、理由として、申し立て件数の増加、事故前後の状況を示す資料の散失、新型コロナの影響、和解案を東電が拒否しているため、等を挙げています。

また国や東電の責任を問い損害賠償を求めた集団訴訟では19件すべてで東電に賠償命令が出たが、国の責任について規制権限を行使しなかった対応の違法性を巡って判断が分かれていること、国は規制権限不行使の違法性を否定し、東電は国の指針に従い十分に賠償している、との反論を載せています。
さらに東電原発事故旧経営陣強制起訴裁判では、2019年9月に3人全員無罪判決が出たが、今後東京高裁で控訴審が開かれる、と報じています。東電と国は少しでも賠償額を減らし国には責任はないと主張していますが、原発事故の責任は、国の原発政策と東電にあります。彼らに全責任を取らせるまで闘いは終わりません。

以上見てきた通り、9年半たっても何も解決していません。安倍首相は退陣しましたが、彼が首相だったために問題はより山積しました。菅新首相は「安倍政権の政策を引き継ぐ」と言っています。彼には全く期待できません。しかし多くの県内外を含め福島県民が闘っています。長い闘いとなるでしょうが、診療所は微力はがらその一翼を担って今後も闘って行きます。

被曝・診療 月報 第40号  コロナ感染拡大と医療崩壊 

この号の内容

1 コロナ感染拡大と医療崩壊

2 私の原爆放射線による被爆線量の研究

3 被曝ア5年目の8・6ビロシマ大行動へ

4 イ主民被曝防護の放棄と福島原発事故

5 県民健康調査検討委員会及び
甲状腺検査評価部会報告

コロナ感染拡大と医療崩壊

本町クリニック院長 杉井吉彦

 新型コロナウイルス感染症は、世界中がまさに「パンデミッナ」となり7月23[ヨ現在で1520万人の感染者、死者60万を越える事態となっています。

米国トランプ大統領の「99%は完全に無害」、ブラジル・ボルソナロ大統領の「コロナ感染拡大抑制は経済殺す」発言に見られるように、感染予防対策を軽視し、「経済を廻す」政策が、幾多の人々に被害を拡大しています。

米・ブラジル・インドで各々100万人を超える患者数、中南米・アフリカ南部での患者増加が顕著となっています。5日間で100万人の新規患者の増加を見ています。有効な抗ウイルス剤の確定も成功しておらず、ワクチンの開発は、きわめて拙速で、強引な開発が進んでおり、効果の未確定や副作用の無視が行われたままでの、大量接種にいたる危険性が高まっています。

日本では7月23日現在、感染者2万8千名、死者1千名の状況で「非常事態宣言」の解除後1ヶ月で、「第2彼の到来」段階に入っていると考えられます。

新規感染者が1千名弱、東京を始めとして、大都市圏を中心に感染の拡大が、「始まって以来・宣言解除後以来」の都府県が多数見られ、高い新規感染者の発生を見ています。

① 学校休校から始まり、「緊急事態宣言の全国発令」を軸とした様々な安倍政権の政策は、施策の失敗、無定見、認識の甘さ・誤りから、安倍内閣の感染予防対策を評価しない60%、内閣支持率32%(数字は7月18日調査の毎日新聞世論調査による)の情勢になっています。

感染予防対策で、最も希望の多かった、PCR検査(結局この検査が医学的に予防政策的にも極めて重要なのは明らかとなっている)の数の増加・検査体制の確立・有機的な連携の効率化が、現在に至るまでなされていない事、全世界的なPCR検査数と比べて、充分にできる医療・経済体制があるにかかわらず、充実・整備されていないこと、そして「二波」に間に合っていない。

「検査数を増やすと、軽症の感染者数を見つけてしまう」とか[検査で、誤判定をする可能性かおるから、患者に余計に負担がかかる]などの、全く誤った、非科学・非医学的な理由を挙げて、意図的に、検査数を増加させていないのは、全く怒りに堪えないです。

② このような状況の中で、現在「2彼の到来」段階を迎えているのだが、明らかに、安倍政権はコロナ感染に対する方針を変えつつあります。「感染の抑制と、経済をまわすの両立論」です。
コロナウイルスの特徴から(感染後発症までの期開か長い・症状が少なくても感染させる可能性かおる等々の理由仁見れば、予防策とは全く矛盾した方策を実行しようとしています。
そして、結果的には「感染の抑制は行わない、放置する」ことになってしまっています。

③ 感染者の増加に対して「全国規模での緊急事態宣言」の要件を満たしているにかかわらず、「重傷者のみ増加しなければ(一波ではこの項目は全く入っていない)医療体制に余裕があるので、宣言は現在のところ考えていない」と、全く前言を翻しています。

「医療体制に余裕がある」と考えている政府・行政は、(とりわけコロナ感染症を受け入れた病院では)急速なベッド整備や人員の配置の困難性から「余裕」など全く無い状況であることを理解せずづ「医療崩壊」を、すなわち「救える命を救えない」状況を作るうとしています。

④西村大臣の「あのような事(非常事態宣言)やりたくないでしよ」の発言は、『経済活動をまわす』のが重要であって、非常事態宣言で「(100%の)補償なくして、自粛せよ」状態を強制した。この政策の決定的な強権的なひどさが、生活危機に陥らせた人々に、逆に責任を転嫁しています。

⑤ 世論調査で「コロナ対応について、どちらかといえば感染防止を優先すべき67%」「緊急事態宣言を全国に発令すべき20%・地域を限定して発令すべき64%」と表わされている健康と命を守るべきだとの思いを踏みにじり、健康被害を拡大する政策・方針は、訂正・撤回すべきです。

 よりに拠って「GoToトラベル」の前倒し実行は、「経済活動重視」の明らかな施策であり、「東京以外も見送るべき69%」と人々の怒り・反対の意思は極めて高い。

 (緊急事態宣言)の効果は、検証されなければならないが、政府・東京都などが再度の「宣言」に全く否定的なのは、これによる当然の要求である「補償要求」に耐えられない、現代社会の脆弱性を指し示している。補償も無く、生活困難に直面している多数の人々を全く守れない社会の命運は、つきかけているともいえよう。

  重要なことは、この一巡の事態の中で「医療崩壊」が起こったことです。それは、医療従事者をはじめとして、介護・健康産業・運輸・文化等々に就く多くの人々に「命と健康を守る」事の重要性を、あらためて深く突きつけた事です。

「自粛」「生活不安」「感染恐怖」よる受診抑制が、全国の医療福祉部門に及び、感染が長期化し経済状況が悪化するほど、国民皆保険・健保体制が始まって以来の、この面からの[医療崩壊]が始まりつつあるといえます。

日本医師会のアンケートでも「このままでは廃業の可能性2.5%」であり、地方で集中的に進行する可能性があると思われます。

 現在の医療の在り方をトータルに考え直し、行動する必要に迫られています。

⑩福島では放射線被曝と感染症の中で、健康を守る必要性がますます重要になってきたと考えます。

被曝・診療 月報 第39号  新型コロナはパンドラの箱だ

この号の内容
1 新型コロナはパンドラの箱だ
2 東電の汚染水対策を批判する
(たんぽぽ舎 山崎久隆)
3 Letter From IIDATE
(飯館村在住・伊藤延由)
4 新型コロナウイルスの感染拡大に想う
(八尾北医療セッタ一院長・末光正道)

新型コロナはパンドラの箱だ

ふくしま共同診療所院長 布施幸彦

1.はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID 19) が全世界で蔓延しています。5月13日現在で、世界の感染者408万8,848人(死者28万3,153人、死亡率6.9%)、日本の感染者1万6,731人(死者681人、死亡率4.0%)。インフルエンザの死亡率0.1%に比べると格段に危険です。人に感染するコロナウイルスは、今までに6種類見つかっており、このうち、4種類のウイルスは、一般の風邪の原因の1O~15% (流行期は35%) を占め、多くは軽症。残りの2種類のウイルスは、2002年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS: 8069人が感染し775人死亡:死亡率9.6%) や2012年以降発生した中東呼吸器症候群(MERS:2494人が感染し858人死亡死亡率34.4%)。今回の新型コロナは、2019年に発見された7番目のコロナウイルスです。

人類の歴史は感染症との闘いの歴史です。100年前には1918年から20年まで足掛け3年で少なくとも4千万人の命を奪ったスペイン風邪がありました。日本の過去100年間をみても、1899 年~ 1950年までは感染症が死因の1位。抗生物質の発見により感染症の脅威はなくなったかのように思われていましたが、新型コロナが感染症の時代は終わっていないと登場したのです。

安倍政府は、日本で最初に感染者が見つかってから、空港や港などで水際作戦を行いました。しかしクルーズ船で多数の感染者が発生し、更にクルーズ船とは無関係の感染者が日本各地で発生しました。感染が日本各地へ拡大したため、安倍首相は「全国の小中高の休校及びイベント自粛」を要請。そして新インフノレエンザ特措法を改悪し、東京オリンピックの1年延期を発表し、全国に緊急事態を宣言しました。安倍首相は住民の命より「復興オリンピック」開催のために、2か月以上新型コロナ対策を行わず放置したため、全国に感染が拡大しました。

2. 世界の新型コロナ禍の環状(5/13現在)

アメリカ感染者136万9,376人・死者8万2,356人・死亡率6.0%中国感染者8万4,018人・死者4,637人・死亡率5.5%
イタリア:感染者22万1,216人・死者3万0,911人・死亡率13.9% ドイヅ:感染者17万3.171人・死者7.738人・死亡率4.4%

世界の死亡率を見るとイタリアの死亡率が飛びぬけて高いのが分かります。同じEUなのにドイツとイタリアの死亡率を比べるとイタリアはドイツの3.2倍です。この違いは新型コロナ対策と医療制度によるものです。ドイツは、①パンデミックを想定して準備し、新型コロナ発生後すぐに対策を開始し、② PCR検査を拡大し、③接触者を含めた徹底した隠離と外出制限を行いました。イタリアの死亡率が高い理由は、医療制度の脆弱性のためです。イタリアは、2007年~ 2008年世界金融恐慌の影響で2兆4千億ユーロを超える公的債務を抱えました。欧州銀行から、国債を買い取る形で救済されましたが、EUから厳しい財政規律を課され、医療費が大幅に削減されました。1人当たりの医療費は1/4に減らされ、758病続が閉鎖され、病床数は激減しました。早期退職と給与削減のため医師不足も引き起こしました。重症者を治療するICU(集中治療室)のベッド数をドイヅとイタリアで比べると、人口10万人当たりドイツ29~30床に対して、イタリアは12床と1/3しかありません。

3. 階級が生死を決める

アメリカの感染者数は世界の1/3を占めています。医療先進国アメリカでは階級が生死を分けています。皆保険制度のないアメリカは無保険者が約7000万人(内、不法移民2000万人)。新型コロナに感染しでも医療費が高額なため受診することさえ出来ません。路上生活者などの多くは受診しないまま死亡しているため、コロナ感染死とカウントされていません。死亡者をアメリカの地図に点打ちすると貧困地域に重なります。新型コロナが単に自然災害ではなく、貧困と格差、階級の問題であることを突き出しています。患者は圧倒的に黒人かヒスパニック系です。医療サービスが貧弱な地域に黒人が住むケースが多く、黒人に感染が急拡大しています。

4.日本もイタリアの二の舞だ

日本もイタリアと同じように医療崩壊の瀬戸際にいます。新型コロナに対応できる感染症病床は、1998年に9060床ありましたが、現在1869床まで減少。重症者を治療するICUも少ないのです。人口10万人当たり5床とイタリアの1/2以下。その上日本の集中治療体制は欧米より脆弱。新型コロナ重症者に対応できるのは「1千床にも満たない」と日本集中治療医学会が声明を出しています。その上医師も足りません。日本の医師数は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均約44万人に対し約32万人と12万人も少ないです。この医療崩壊の危機の中で、厚労省と東京都は更なる病床削減を行おうとしています。厚労省は、感染症病床全体の9割以上を担っている公立・公的病院のうち440の統廃合を進め、5年後までに病床を20万床減らそうとしています。東京都も都立病院の独法化方針を決定し病床削減を行おうとしています。PCR検査体制も崩壊しています。保健所はPCR検査の必要性を決める要ですが、1992年の852カ所から2019年には472カ所とほぼ半減されました。PCR検査を担っている衛生研究所の職員数も減らされてきました。国立感染研究所の研究費は2009年度61億円でしたが、2018年度に41億円に削減され、研究者も2009年の322人から307人に減らされています。

5. 新型コロナ対策は2022年まで断続的に続く

米国ハーバード大学は、新型コロナの流行は一度きりのロックダウン(都市封鎖)では終わらず、医療崩壊を妨ぐにはソーシヤルディスタンスが2022年まで断続的に必要になると予測しました。またドイツのメルケレ首相は「過去の疫学的経験上、国民の相当大きな割合が感染することになり、専門家は60%から70%と予想している」と述べました。この話はドイツだけのではありません。人類の6~7割が感染しないと終わらないと言っているのです。

6.余世界の人々と共に未来を開こう!

新型コロナとの長い闘いは始まったばかりです。一時的に収まったかのように見えても、スペイン風邪のように第2波・第3波と襲ってくる可能性があります。個人だけでなく国家間のソーシヤルディスタンスは当分必要でしょう。新型コロナもいずれ収束します。しかし新型コロナ後の世界は、経済や価値観も含めて今までとは全く違う世界となります。一つはっきりしていることは、1930年代と同じにように、世界が分裂し、大不況と大失業と貧困の嵐が吹き荒れることです。100年前のスペイン風邪のあと、世界は第二次世界大戦への道を進みました。今回はどの道を選択するのでしょうか。新型コロナはパンドラの箱です。だから希望もあります。それは新自由主義の圧政に抗して、感染者や労働者の命と生活を守るために新型コロナ禍と闘っている日本も含めた全世界の人々です。そして彼らの存在が未来を決めます。彼らを信じて彼らと共に、未来を切り開きましょう

(この要旨は雑誌「No Nukes」 に載せました)

被曝・診療 月報 第38号  大規模感染と医療従事者

この号の内容

1 大規模感染と医療従事者
2 3・11反原発福島行動20に参加して
3 説明のつかない矛盾に逢着し焦り深める「検査打ち切り派」
4 子ども脱被ばく裁判での郷地秀夫医師の証言に注目
5「義兄の死にも放射能が影響?」

 

大規模感染と医療従事者

本町クリニック院長 杉井吉彦

東日本大震災と福島第一原発事故から9年が経過し、「復興オリンピック」が、「福島はアンダーコントロールされている」との安倍誘致発言のもと開催されようとしました。
1月からの中国・武漢から発生した「新型コロナウイルス(COVID-19)感染」が世界的な規模で波及し、感染者35万人、2万人の感染死の増加の勢いは加速しつつあります。
日本においては、「クルーズ船感染」から始まり、無茶で予防処置をしない休校命令・強引で強権的な「措置法」改定にかかわらず、全く危機的状況は回避できずに、大規模感染が現実味を帯びつつあります。
このような事態から、思うことは、
①現代社会は、極めて脆弱なものとなっており「人々の健康と命を守る」という課題に対して、ほとんど無防備で、このようなパンデミックは予想されていたにもかかわらず、拡大を止められずにいる(アメリカの毎年のインフルエンザの死亡数や、イタリアのコロナ死亡率の高さなどから、明らかなように、「医療崩壊」がすでに進んでいたと事の証拠だとの指摘は妥当だと思われる)。
②東京においてコロナウイルス感染の対処・治療の中心になっているのは都立病院です。経費削減を最優先とした、「地方独立行政法人化」(東京以外でも進んでいるが)などは、公立病院の存在が支えになっている「公的医療」の重要性を無視した政策であることを、真に証明したといえます。
③感染が広がる中、世界中の医療従事者は、必死に職場で「命を守る」行動をとっています。中国では、命がけで、政府当局の抑制・弾圧を打ち破り感染の事実を公表した医師(狭い専門性を超えて告発した)がいます。韓国テグ市の医師団が、「感染者の早期発見と適切な医療のための物的人的支援の拡充を求める」声明を発表しています。それには「体制の整備。感染症に弱い弱者への迅速な対応。医療労働者を感染の危険から防護し、非正規職者が防護処置において差別的待遇を受けないようにする事」など極めて示唆に富んでいます。
④この韓国における、一日一万件を越えるPCR検査で、潜伏期・軽症者を発見し、早期治療に結びつけた。日本では、明らかに、「検査しないことで感染者数を極力少なく見せようとした」=「東京オリンピックの開催に支障をきたす」といわれても仕方がない状況を作りました。地域のクリニックの医師が「今すぐ検査が必要」と保健所に報告しても、検査を断られる事態が頻発しました。高熱が続いても「自宅安静」を続けよと「殺到して混乱する」との理由のみで、検査を抑制しました。ようやく検査の保険適用を決定して安倍首相は「全国どこの医療機関でも可能となった」と発言し、実際の検査機関との準備を全くせず、現実的に実施できないまま、医療機関で検査を求める人々との間で、無用なトラブルを頻発させた責任は、極めて重い。きちんと政府との交渉を行わないで、右往左往した日本医師会の責任も大きいと思います。
まだまだ、情勢は予断を許しません。感染の爆発をなんとしても停止、収束させねばなりません。世界的にみて、「先進国」以外の地域の感染進行は、もっと悲惨な状況になるのではないかと危惧します。感染の長期化も予想されます。
オリンピックの延期も決定しました。数(4~5)千億円もの追加が必要になるとのことです。何が「復興オリンピック」なのでしょうか。世論調査でオリンピック「中止」に賛成するが人々が15%を超えています。
3.11反原発福島行動は600名の規模で「オリンピックをやっている場合か」の声をあげています。3月には「常磐線」の全線開通を強行し、放射能汚染水海中投棄の決定しようとしています。避難者から住宅を取り上げるため、県は「訴訟」を頻発して追い出そうとしています。
「リーマンショックを超えるコロナショック」の事態の進行は、3.11大震災と原発惨事で「生き方を変えた」人々が多かったように、すべての医療従事者に対して、一つ一つの現場の医療の中身と質を問われる状況(経済状況も激変する可能性もあり)だと思われます。現実を直視し、「命と健康を守る」とは何かを、変えなければならないものは何かを、問い行動せねばならないと考えます。         (2020年3月26日 記)

被曝・診療 月報 第36号 健康を守る、福島をくり返さない  東海第二原発の再稼働はNO!

この号の内容
1 健康を守る、福島をくり返さない
2 第36回県民健康調査委員会傍聴記
3 現代(いま)いのちを問う
講演会・分科会の報告

4 弁護士田辺保雄氏
「原発賠償訴訟の現状について」

5「9年が過ぎて父親として」

 

健康を守る、福島をくり返さない

 東海第二原発の再稼働はNO!

本町クリニック院長 杉井吉彦

10月の19号台風によって東日本の各地に大きな被害が発生しました。福島では死者30名を超え、住居の全・半壊1、700棟、床上浸水12、000棟の大被害を受けました。10月23日の「福島民報」の投書欄には「農機はもとより田畑は水没。国は一機100億円心する戦闘機の輸入をキャンセルし、災害復旧に回してください」との投稿がありました。同じ面の「今回の天皇代替わりの費用160億円」対比に福島県民の気持ちと意志が現れていると思います。被曝を強要する、チェルノブイリ法の基準と大きく異なる20mシーベルト以下の帰還を誘導する「復興」は進んでいません。多くの住民が「避難解除」になった地区への帰還に応じていません。被曝・健康被害の恐れと「復興」に値するための生活基盤の整備が、復興が進んでいないことを国民は知っているからです。「復興オリンピック」は実態のない、むしろ被曝・健康被害を進めるものとしてあります。
http://file.doromito.blog.shinobi.jp/Img/1569216833/ さらに、来年3月から、常磐線の全面開通(現在、運休中の浪江駅~富岡駅)が進められようとしています。これまでの基準では「帰還困難地区」である、住民が生活していない地区に列車を走らせる計画です。20mシーベルト以上にかかわらず、JR東日本株式会社の、女子労働者を含む、従業員に「線路上は除染されている」とが、「列車が走っても、汚染に関する特別な検査は必要ない」と、被曝をまさに強制する事態になろうとしています。また、乗客として「通過」する県民に対する、「特別な処置・警告などはしない」としています。今までの基準を全く無視し、最終的には、「帰還困難地区」は無くす、20ミリシーベルト以上の地域に住まわせる方針に切り替える第一歩ではないかと危惧されます。「安全・安心」のキャンペーンに対して、今こそ、「被曝強要反対」「健康を守れ」が、医学・医療の常識ではないかと思われます。東京保険医協会の「東京保険医新聞・鋭匙」に、[医師の被曝基準を超えるような地域に‥これでいいのか]との意見は人々の、とりわけ人々の健康を守る責務がある医師の共通の意思・見解とならなくてはいけないと考えます。
また茨城県では、最も古い時期に完成した、東海第二原発が、2、000億もの巨費を使って再稼動する計画が進んでいます。多くの県民が(関東一円でもあります)反対しており、元日本医師会長の「福島の甲状腺がんの多発の考えると・・」の反対集会発言かあり、多くの医師が参加しています。賛成・反対を問う「県民投票」運動が進んでいます。福島の現実を確認すればするほど、茨城東海第二原発再稼動反対の意思を強くせざるを得ません。

原発事故の避難区域
(2017年4月1日現在)

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被曝・診療 月報 第35号  福島原発事故の終息宣言となる東京オリンピツクに反対する

この号の内容
1 福島原発事故の終息宣言となる東京オリンピックに反対する
2 ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・チェルノブイリ・フクシマをくり返すな
3 福島県浪江町・飯館村における放射線調査の報告
4 福島の現状と課題:土山元美医師の講演を聞いて

 

福島原発事故の終息宣言となる
東京オリンピツクに反対する

一放射能被害から福島県民の命を守るためにー

ふくしま共同診療所院長 布施幸彦

国連人権理事会の勧告はlmSV以下が基準

 昨年10月、国連人権理事会のトゥンジャク氏が日本政府に「福島への子どもの帰還見合わせを求める」勧告を行いました。
福島原発事故のあと、日本政府が避難指示を解除する基準の1つを年間の被ばく量20mSV以下にしていることについて「人権理事会が勧告した1mSV以下という基準を考慮していない」「日本政府の避難解除の基準ではリスクがある」「子どもたちや出産年齢の女性の帰還を見合わせるよう」求めたというものです。
これに対して、日本政府は、国際的な専門家団体の勧告に基づいていると反論し、その上で「帰還を見合わせるべき」という指摘については、「子どもたちに限らず、避難指示が解除されても帰還が強制されることはなく、特別報告者の指摘は誤解に基づいている」と反論し、国連人権理事会と日本政府との立場の違いが浮き彫りになりました。

住宅手当を打ち切るなどの「帰還を強制」する政策

政府は「帰還を強制していない」と言っていますが、年間20mSV以下の地域の避難指示を解除し、学校を再開し、住宅手当の補償を打ち切り、県外への自主避難者をそれまで住んでいた住居から追い出し、2020年3月には帰還困難区域住民の住宅補助さへ打ち切ります。この政策は「帰還の強制」そのものです。そして2020年3月に常磐線を全面開通させ、「福島原発事故はなかった」ことにし、東京オリンピックを福島で開催しようとしています。

困窮している被災地へ3兆円を回すべき

東京オリンピックは、安倍首相が「健康被害は今も将来にわたってもない」「事故はアンダーコントロール」と言って招致しました。費用は8000億円と当初は言われていましたが、今は3兆円を超えると見積もられています。こんな多額なお金をオリンピックに費やす必要があるのでしょうか。
ギリシャは、アテネ・オリンピックを行った後に破産しました。長野オリンピックで、長野県は1兆4439億円の借金を背負いました。日本も東京オリンピック後は多額の借金を背負うことになります。
それでも3兆円ものお金を使うというなら、東日本大震災・熊本地震・北海道地震・西日本豪雨災害などで被災した人々の支援や原発事故で被ばくした人々に使うべきです。

被曝隠しの国を誇れるのか

東京オリンピックまで後1年を切りました。東京都は、小・中・高校でオリンピック・パラリンピック教育を35時間/年行っています。
その内容は、①ボランティアマインド、②障害者理解、③スポーツ志向、④日本人としての誇り、⑤豊かな国際感覚、を育むという内容です。
東京都はオリンピック・ボランティアを募集しました。「ボランティア」良い言葉ですが、別の言い方をすれば、ナチスドイツの[労働奉仕]、戦前の日本の「国民勤労報国協力。です。
東京オリンピックの効果について、NHKのスポーツ担当解説委員は「第一に国威発揚」と言っていました。ナチスドイツのベルリン・オリンピックと同じです。震災復興を印象付ける取り組みとして、福島から聖火リレーを開始し、野球・ソフトボール競技を開催することになっています。

IPPNWドイツ支部が「放射能」五輪開催の被曝を懸念

IPPNW(核戦争防止国際医師会議ドイツ支部)がTokyo 2020 Die radioaktiven Olympischen Spiele(2020年東京「放射能」オリンピック)という声明を出しています。
内容は以下の通りです(要約)。
参加するアスリートと競技を見物する観客たちがフクシマ近郊で被ばくするのではないかと懸念している。特に放射線感受性の高い妊婦や子供たちが心配です。日本政府は、この五輪開催には最終的に120億ユーロかかると予測している。しかし日本政府は、避難指示解除後、故郷に帰還しようとしない避難者たちには支援金の支払いを止めている。IPPNWは、放射能に汚染された地域にあたかも「日常生活」が戻ったような印象を世界に与えようとする日本政府に対しはっきり「ノー」を突きつけます。

「原子力緊急事態宣言」を解除する努力が急務

また、元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏は「フクシマ事故と東京オリンピック」という声明でこう書いています(要約)。
日本はいま「原子力緊急事態宣言」下にある(平常時は一般人の被ばく量は年間1mSV以下、しかし 原発事故で緊急事態となったので、年間20mSV以下まで許容)。環境を汚染している放射性物質の主犯人はセシウム137であり、半減期は30年。 100年たっても10分の1。この日本という国は、これから100年たっても、「原子力緊急事態宣言」下にある。
五輪はいつの時代も国威発揚に利用され・・・。
箱モノを作ってば壊す膨大な浪費社会と、それにより莫大な利益を受ける土建屋を中心とした企業群の食い物にされてきた。大切なのは「原子力緊急事態宣言」を早く解除できるよう、国の総力を挙げて働くこと・・・。事故の下で苦しみ続けている人たちの救済こそ、最優先の課題・・・、少なくとも罪のない子どちたちを被げくから守らなければならない。それにも拘わらず、この国ぷ五輪が大切だという。フクシマを忘れさせるため、マスコミは今後ますます五輪熱を流し、五輪に反対する輩は非国民だと言われる時が来るだろう。先の戦争の時もそうであった。罪のない人を棄民したまま五輪が大切だという国なら、私は喜んで非国民になろう。原発を再稼働させ、海外にも輸出する。原子力緊急事態宣言下の国で開かれる東京五輪。それに参加する国や人々は、もちろん一方では被ばくの危険を負うが、一方では、この国の犯罪に加担する役割を果たすことになる。

政治に翻弄される五輪、もう止めよう

全世界のアスリートが集まり技を競うオリッピックは素晴らしい大会だとは思います。しかしオリンピックの歴史は、政治史にまみれています。
1936年のナチスドイツのベルリン、1976年のモントリオールでは22ヶ国のアフリカ諸国がボイコット、1980年のモスクワではアメリカ・西ドイツ・日本などがボイコット、1984年のロサンゼルスでは東ヨーロッパ諸国がボイコットを行っています。
日本は原発事故によって汚染されました。その地でオリンピックを行うのは間違っています。オリンピックを行うことより先にやるべきことがあります。IPPNWや小出氏の提言のように、私はオリンピックを返上すべきだと思っています。それで非国民と言われるなら私も喜んで非国民になりましょう。

被曝・診療 月報 第34号  甲状腺超音波検査を今こそ充実させよう

この号の内容

① 甲状腺超音波検査を今こそ充実させよう
② ふくしま共同診療所と共に歩む会結成のつどい開かれる
③ Letter fromヒロシマ
④ 第35回県民健康調査検討委員会レポート
⑤ 7月7日「医療シンポジユウム」に参加して

 

甲状腺超音波検査を今こそ充実させよう

 本町クリニック院長 

検討委員会で『中間まとめ』公表延期

7月8日「第35回福島県民健康調査検討委員会」が開かれました。詳細は本号の他の記事でも報告されていますが、あまりにもひどすぎる会議の内容・結論の公表として歴史に残ると思います。
「甲状腺検査評価部会」の「甲状腺本格検査(検査2巡目)結果に対する部会まとめ」を基に結論的に「本格検査[2巡目で発見された甲状腺がんと放射線被曝の間の関連は認められない]・・・2巡目だけの検査での結論で「認められない」と所定してしまっている。「本格検査における甲状腺がん発見率は、先行検査よりもやや低いものの、依然として数十倍高かった」としながら、批判の強い放射線に関する国連科学委員会(UNSCERA)の「推計甲状腺吸収線量」を用いて「線量と甲状腺がん発見率に明らかな関連は見られなかった」と断定(推定!)している。「男女比がほぼ1対1となってり、臨床的に発見される傾向(1対6程度)と異なる」としながら、「評価は今後の課題として残されている」と全く、医学的・統計学的に考えられない結論を導き出しています。
会議は、様々な傾向の、異論・反論で分裂状態となり、全会一致とはならなかったのも事実です。しかしながら、全体的には「甲状腺検査不要・縮小」の方向に向かって一段と進んでいったことは間違いありません。

早期発見・早期治療ーがん治療の常識通ぜず

それからよく示したものとして県の「甲状腺検査のお知らせ文改定案」の公表です。検査を受けようとする県民に配布される統一した文書で、ここには{縮小・廃止}したい意図がはっきりと見えます。それによると、そもそも検査は「県民の不安に応えるために始まりました」(癌の早期発見のためではないのだ)とし、「検査にはメリットとデメリットの両面があります」論が主要な主張となっている。「デメリットとしては、一生気づかずに過ごすかもしれない無害の甲状腺がんを診断・治療する可能性」(あくまで可能性であって、「無害」かどうかを発見された癌で、確定することが不可能であるという、甲状腺がん治療上の医療常識を知らせようとしていない)。
さらに、「治療に伴う合併症が発生する可能性」がデメリットと主張しています。驚くべきことに癌治療において「合併症が発生する」ことが、癌検査・治療を受ける人々の医療上の利益にならないと考えているのが、多数派だと考えているのだろうか。そうでなければ、「発生する可能性」で検査をやめろと脅迫していると指摘されても、反論できないと思われます。そして「結節やのう包が発見されることにより不安になるなどの心への影響」がデメリットとしていることは、全く理解できません。「核惨事」によって心身ともに傷害を受け・受け続ける状況にある子供たちにとって、発見して治療して健康を守り抜こうとしている県民にとって、「発見されることによって不安」などと、人々の苦痛と不安に「検査しないように」と呼びかける立場は、医師にとって、あってはならないことと考えます。
いずれにせよ、現実的には、甲状腺検査は減少を続けており、とりわけ18歳以上(25才まで)の受診者は10%で、発見が遅れるケースが増加することが考えられ、福島を離れている県民に対する検診は長期にわたって全国的な規模で行う必要があるのは多言を要しません。福島県で「指定」した他府県の甲状腺検査機関は、2~3ヶ所が多く、充分ではありません。さらに成人の甲状腺検査の必要性も県内外において絶対に必要だと思っています。
現実に、検査を希望する成人が増加しています。これらの要求に絶対に応えねばなりません。
こと甲状腺だけでも「縮小・廃止」ではなく、長期で膨大な数の検査をやり遂げればならないと思います。事態はきわめて深刻で、全力で「避難・保養・医療の原則」を貫かねばなりません。

3.10被曝・医療・福島シンポジウム報告集 事故より8年、福島の現実と課題 『被曝・診療 月報』特別号(第33号)

【発行所】 ふくしま共同診療所
〒960-8068 福島県福島市太田町20―7 佐周ビル1 階
(TEL)024-573-9335  (FAX)024-573-9380
(メール)fukukyocli@ark.ocn.ne.jp
【編 集】 本町クリニック事務局
〒185-0012 東京都国分寺市本町2-7-10 エッセンビル2 階
(TEL)042-324-9481  (FAX)042-400-0038
(メール)suzuki@honkuri.com
【頒 価】 650円
(銀行口座) みずほ銀行 国分寺支店
普通 4282013
名義 『被曝・医療月報』

目次

◆福島の現実と格闘し、被曝医療を続ける—- 1
-シンポジウム実行委員長の挨拶-
ふくしま共同診療所院長 布施幸彦
◆ICRP(国際放射線防護委員会)体系を科学の目で批判する—- 4
社会的・経済的戒律から科学と人権に基づく「放射線防護」体系へ
琉球大学理学部名誉教授 矢ヶ崎克馬
◆被災当事者にとつての東電原発事故—- 14
~健康被害と損害賠償問題を中心に~
医療法人創究会 小高赤坂病院理事長/院長 渡辺瑞也
◆文在寅(ムン・ジェイン)政権下での原発政策について—-32
東国大学医学部教授 キム・イクチュン
(通訳 韓目国際間通訳 カン・ヘジョン)
◆ビデオレター 3.10国際シンポジウムに寄せて—-37
IPPNW(核戦争防止国際医師会議)ドイツ支部 アレックス・ローゼン
◆質疑応答
◆コーデネーターとしてシンポジウムを振り返る—-52
医療法人社団緑杉会 本町クリニック院長 杉井吉彦
◆寄稿 フクシマの苦悩の「打開策」—-53
-被爆地ナガサキの二の舞を演じないために一
やまぐちクリニック(大阪・高槻)院長/現代医療を考える会代表
山口研一郎

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被曝・診療 月報 第32号  被ばく8年目の現実と向き合う

この号の内容
1 被ばく8年目の現実と向き合う第3回シンポジウムヘ
2 脱原発は福島から~分断を乗り越えるために
3 ふくしま共同診療所と共に命を守る:佐藤幸子さん
4 第33回県民健康調査検討委員会 傍聴記
5 高野徹委員を尖兵とする甲状腺評価部会などの惨状

被ばく8年目の現実と向き合う

一第3回被曝・医療福島シンポジウムヘご参加の呼び掛けー
ふくしま共同診療所院長
布施幸彦

今年の3月11田こ福島第一原発事故から9年目になります。原発事故で被ばくした福島県民に寄り添う医療をするために2012年12月1日に開院した当診療所も6年3か月となります。診療所の経営状況は今も余り良くありませんが、診療所を支えようとして下さる全国・全世界の人々のお陰で、今まで診療を続けて来られました。最初に感謝申し上げます。

診療所の6年間の活動

診療所は、「避難、保養、医療」の原則を掲げ、開設以来様々な活動を行って来ました。理由は、被ばくした人々の健康を守り、東京電力と国に全責任を取らせ、全国・全世界から原発をなくすためです。
①子供だけでなく大人も含め約3、000人の甲状腺エコー検査と健康相談。
②原発事故のために避難を余儀なくされ仮設住宅で暮らす住民を対象にした健康相談と個別訪問診療。
③除染労働者や原発労働者等の被曝労働を行っている人の検診と治療。 ④全国の保養施設の紹介と連携。
⑤福島の現状を全国・全世界に伝える講演活動、ほぼ月に1回講演を行い、2017年には韓国の国会議員会館で講演しました。
⑥全世界の反核・反原発組織との連携。
⑦県内外の避難者への支援。第2回被曝・医療福島シンポジウム
⑧「被曝と帰還の強制に反対する」署名活動、今までに62、811筆を集め、県当局と6回の交渉を重ねてきました。
⑨県内・県外での無料甲状腺エコー検査。
診療所は、活動の集大成として「被曝・医療 福島シンポジウム」を2015年から2年に1回行っています。今年第3回目を行います。

第1回シンポジウム

第1回目は2015年3月8日に行いました。講演者は4人。私か最初に「放射能による小児甲状腺がんの多発と原発再稼働」と題して発言し、次に「子どもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」代表の山田真氏が、医学データーは立場の違いでいろいろ解釈される余地があるので、被ばくした県民の立場に立つことが肝心という観点で発言。3番目に韓国で中間貯蔵施設建設反対運動を担われた反核医師の会・東国大医学部教授のキム・イクチュン氏が放射線被ばくに闇値は無く「福島は住むべき場所ではない」と直言し、最後に元国会事故調査委員で3.11甲状腺がん子供基金代表理事の崎山比早子氏が、放射線による非がん性疾患、特に免疫系への影響について述べられました。

第2回シンポジウム

2017年3月12日に第2回が行われ、この時の講演者も4人。最初に広島大学原爆放射線医学研究所の天龍滋氏が「放射性微粒子曝露原因説で解ける原爆被爆者における健康リスクのパラドックスーフクシマの皆さまへの提言-」と題して、放射性微粒子による内部被曝について発言されました。次に東国大医学部キム・イクチュン教授が最初に「大統領を罷免した国・韓国から来ました」と挨拶し、「韓国の原発周辺における疫学調査]と題して、原発周辺で甲状腺がんが多発しており裁判所がその原因は原発にあると認定したことを報告し、疫学調査の重要性を強調しました。3番目に山田真氏が、「今私たちがしなければならないこと」と題して、[この6年間福島では闘いらしい闘いはなかった]「この状況を打開するにはどうすれば良いのかを皆で考えていこう_と話されました。最後に私か「被ばくの強制とたたかいの最前線から」と題して、2020年東京オリンピックと甲状腺検査縮小・高汚染地区への帰還の強制の背景、甲状腺超音波検査の縮小、避難者の住宅支援打ち切り・帰還の強制、「被曝と帰還の強制反対署名」の取り組みの4点を話しました。

「被ばくはゼロしか許されない」と主張され続けた松江寛人前院長

実行委員長は、過去2回とも昨年3月11日に逝去された松江寛人前院長でした。松江先生は、全国医学生連合で委員長を務め60年安保闘争を中心的に闘い、卒業後は国立がんセンターで放射線診断部部長となり日本の放射線診断の重鎮として活躍されました。2011年3月11日に原発事故が起き、被ばくによる健康被害から住民を守る診療所を作ろうとした時に、76歳の先生が初代院長を引き受けて下さり診療所は出来ました。放射線科の医師の先生の口癖は「放射能による被曝はゼロしか許されない」。このシンポジウムも放射能汚染による健康被害の実態を広く世間に訴えねばならないとの先生の信念から生まれたものです。その意思を引き継ぐ思いを込め一周忌に当たる2019年3月10日(日曜日)に3回目を行います。実行委員長は、不肖私が務めます。

第3回シンポジウムが提起すること

今回は講師に十分に話してもらうために演者を3人に絞りました。講師と講演内容について簡単にご紹介させていただきます。
1人目ぱ、沖縄での避難者支援などでご活躍の琉球大学名誉教授矢ヶ埼克馬氏。矢ヶ崎氏には「ICRP(国際放射線防御委員会)を科学の目で批判するレT仮題〕こについてお話をして頂きます。
2人目は、福島県原町区小高町で精神病院院長として相双地区地域医療を担うさなかに原発事故が起き、そのすべてを失いながらも政府・東京電力と渡り合い、新たに新地町に精神科クリニックを開設した渡辺瑞也氏です。先生には自著「核惨事」の内容に沿ったお話をして頂きます。
3人目は、韓国反核医師の会キム・イクチュン東国大医学部教授です。「ろうそく革命」でパク・クネ政権を倒し たムン・ジェイン政権下の原発政策についてお話をして頂く予定です。キム先生を3回連続お呼びしたのには理由があります。私たちはこのシンポジウムを単に日本だけのシンポジウムにせずに、全世界の反核・反原発を担う医療者の国際連帯の場とするという目標があります。反核・反原発は一国ではできません。国際連帯の闘いが必要です、だから韓国民衆との連帯を込めてキム先生に講演をお願いしました。また参加は叶いませんでしたが、PNW(核戦争防止国際医師会議)ドイツ支部のアレックス・ローゼン氏に毎回ビデオメッセージをお願いしています。
今回のシンポジウムが原発事故より9年目となる福島の現実と向き合い、課題を共有しながら、皆さんと共に考える機会になればと考えております。
ご多忙とは存じますが、ご参加・ご賛同を宜しくお願い申し上げます。

<テーマ>  事故より8年 福島の現実と課題

と き: 2019年3月10日(日)  午後1時半より
ところ: コラッセふくしま  多目的ホール (4階)
託児室は 和室1(3階) 駐車場は近隣のPをご利用ください

<講師のご紹介>
●矢ケ崎 克馬 氏

ICRP(国際放射線防護委員会)を科学の目で批判する
琉球大学名誉教授 物性物理学
認定原爆症集団訴訟で証言
著書『地震と原発 今からの危機』
『内部被曝』
『隠された被曝』
●渡辺 瑞也 氏
被災当事者にとっての東電原発事故
~健康被害と損害賠償問題を中心に~
医療法人 小高赤坂病院 理事長・院長
著書『核惨事』
●キム イクチュン 氏 
ムン・ジェイン政権下の原発政策について
韓国・東国大学医学部教授
前原子力委員会委員
反核医師の会運営委員

被曝・診療 月報 第31号   県民の命と健康を守るたたかいは「復興」オリンピックを許さない

この号の内容
1 県民の命と健康を守る闘いは「復興」オリンピックを許さない
2 国際キャンペーン:東京2020 -放射能オリンピック
3 公演日誌in大阪
4 学校健診打ち切りの動きを押し返した「福島の怒り」
5 トリチウムの海洋放出は危険である

県民の命と健康を守るたたかいは「復興」オリンピックを許さない

-「2020東京汚染オリンピック」国際キャンペーンに応えてー

本町クリニック院長 杉井吉彦

東日本大震災と福島第一原発事故は歴史上かってない『核惨事』事態でした。
7年半が経過し、多くの人々思いは、「ヒロシマ・ナガサキ・フクシマである以上、核・原発と人類は共存できない」「福島の現実から考えると、原発の再稼動にまったく同意できない」「原発はすぐさまでも廃絶すべき」と思っています。
現在に至るまで、国際的基準ですらない年間20mmシーベルト以下での「強制避難」解除に対して、80数%以上の人々が「安全・安心ではない」と、生活と健康をかけて拒否し、避難を続けている現状があります。そして、福島における、被曝・健康障害が、「小児甲状腺がんの多発」として現れ、福島県民の命と健康を守らなければならないとの声が、「避難・保養」に対する多くの実施・協力・支援の運動として全国に広がっています(年間1万5千人以上が保養に行くと思われます)。
そうした中で、原発の再稼動、原発輸出を推進する安倍政権は、避難計画の未完成(病院・介護施設の避難計画などできるわけがありませんが)にもかかわらず、住民の反対を押し切って、再稼動などを強行しつつあります(5㌔範囲内の住民に、『抗甲状腺剤』を予防的に配布する。 11月に原子力規制委員会決定。それによって、原発の安全性を自ら否定している)。
そして、「復興オリンピック」と銘打って、2020年に東京オリンピックが開催されようとしています。安倍首相の誘致発言「事故はアンダーコントロールされている」「現在も未来も健康障害は起こらない」は、全く、現実とかい離しています。汚染水の大量貯蔵(海への放出を狙っています)、「暫定」除去施設の未完成、除染物の放置、915万袋のフレコンパック。更に、もっとも危険な汚染デブリの除去は未だ「目途さえ」立っていません。
さらに、全県を回るとされる聖火リレーに駆り出される県民にとって、路上は汚染除去したとして、数メートル、数十メートル先の森林は全く除染されていません。「放射能汚染が循環する森」をみて下さい。放射能風雨は否応なしに襲いかかります。被曝なしとは絶対にいえません。更にオリンピック球技アスリートはどうなのでしょうか。誘致・開催の前提が全く崩壊しています。さらに新たな被曝の危機に200万県民を晒すのです。にもかかわらず、あえて『復興オリンピック』と称し、特例として福島県内での球技の開催と、オリンピック聖火リレーの出発点として(ギリシャでの採火式を3.11前後に設定する)、「福島の安全・安心」を押し付け、現実を覆い隠そうとしています。
世界の人々、とりわけ命と健康を守る医師たちは、オリンピックの日本での開催に多くの疑問を持つのは当然と言えます。本号に全文を掲載した、アレックス・ローゼン小児科医師(1回目、2回目の被爆・医療福島シンポジウムに発言を寄せていただいている)らの「IPPNW核戦争防止国際医師会ドイツ支部キャンペーン」が「2020東京『汚染』オリンピック」で世界に呼びかけています。
極めて、現実をよく把握した提言だと思います。一点だけ「日本政府は、避難解除後、故郷に帰還しようとしない避難者たちには支援金の支払いを止めると脅しています」となっていますが、事態は進んでおり、現在すでに「脅し」ではなく、支払いを止めつつあります。これにたいして、避難者は支援金の継続や増額を求めて裁判に訴えています。山形の雇用促進住宅に入居している避難者にたいしては、「退居せよ」と、裁判に訴えています。入居者は、訴える資格もない事業団に対し、受けて立つと理不尽なやり方を弾劾しています。
このキャンペーンの中で「日本の汚染地域が平常状態に復帰したことを装おうとする日本政府の試みを強く弾劾する」ことは、多くの心ある世界の人々の共通の思いだと考えます。
私は、この国際キャンペーンに賛同し、国内外の医師、医療関係者の賛同を勧めたいと思います。よろしくお願いします。
(※国際キャンペーン正文は今号に載せました。賛同の旨を是非、月報編集部または福島共同診療あてにお寄せ下さい。)

国際キャンペーン
“Tokyo2020 ? The Radioactive Olympics”

“東京2020 一 放射能オリンピック”

2020年に日本は、世界中のアスリートに東京オリンピックヘの参加を呼び掛けている。私たちは、選手たちが偏見なく平和的に競技できる期待すると同時に、野球とソフトボール競技が、崩落した福島第1原子力発電所から50Kmの福島市で計画されることを憂慮している。 2011年この地で複数の原発がメルトダウンし、放射能が日本列島と太平洋に拡散した。チェルノブイリの核メルトダウンに唯一匹敵する核惨事となった。

この惨事の環境的・社会的な帰結は、この地の至るところで確認できる。多くの家族がその先祖伝来の家から引き剥がされ、避難区域はさびれ、汚染上が詰められた数十万のバッグ(フレコンバック)が至るところに放置され、森林・川。湖は汚染されている。日本は平常状態への回帰なされていないのだ。

原子炉は危険な状態に置かれており、更なる核惨事がいつでも起こりうる。海洋、大気、土壌への放射能汚染は毎日続いている。膨大な核廃棄物が原発敷地内の野外に保管されている。もしもう一度地震が起これば、これらが住民と環境に重大な危険を引き起こすことになる、核惨事は継続しているのだ。

私たちは2020オリンピックに向けて国際キャンペーンを企画している。私たちの関心事は、オリンピックのアスリートと訪問者が、その地域の放射能汚染により健康上の悪影響を受けるかもしれないということである。放射能感受性の強い子供や妊婦には、特段の関心を寄せねばならない。

日本政府の公的な見積もりによっても、オリンピックには120億ユーロもの巨費が掛かる、一方で日本政府よ、汚染地域に帰還したくない全ての避難者への支援打ち切りの脅しを掛けている。
核事故に起因する追加被曝の一般人に対する許容限度の国際基準は、年間1ミリ・シーベルトである。

避難命令が解除された地域では、帰還する住民は年間20ミリ・シーベルトに晒される。膨大な除染作業が行われた場所でさえ、山岳や森林地帯が放射性微粒子の継続的な貯蔵庫として働くので、好ましくない気候条件によっては何時でも再汚染されることになる。

私たちのキャンペーンは、核産業の危険性について一般民衆を啓蒙することに照準を合わせる。日本の民衆がどのような健康障害に晒され続けているかを明らかにする。通常運転中の原発でも、一般民とりわけ幼児と胎児に対して重大な脅威を与えている。

核産業の有毒な遺産のための安全かつ恒久的な保管場所は、この地球上の何処にも存在しない。これこそが真実なのだ。

私たちは、原発の段階的廃止を呼び掛ける日本の仲間の取り組みを支持し、化石燃料と核燃料から離脱し、再生可能エネルギーに向けた世界的エネルギー革命を促進するため、オリンピックのために創設されるメディアを活用するであろう。

私たちは、世界中の軍事産業複合体の政治的代表者に、本件に関与することへの関心を高めて行く。

私たちは、日本の汚染地域が平常状態に復帰したことを装おうとする日本政府の試みを強く弾劾する。

私たちは、世界の全ての組織に私たちのネットワークに加わり、このキャンペーンをまとめて行く運営グループを共に立ち上げて行くことを呼び掛ける。
オリンピックまでは2年であり、まだ組織化の時間はある。
ご返事をお待ちします。

“核脅威のない2020オリンピックを”キャンペーンに向けて:
   Annette Bansch-Richter-Hansen
   Jorg Schmid
   Henrik Paulitz
   Alex Rosen