被曝・診療 月報 第26号 県民の被曝障害を顧みず、「復興」をゴリ押しする福島県のゼロ回答は許せません

この号の内容
1 全国保険医新聞寄稿
「小児甲状腺癌とは」批判③
2 菅間博論文批判②

3 28回県民健康調査検討委員会傍聴記
4 健康相談in博多
5 原子力機構の放射線被曝事故から学び、
東海第二原発再稼働阻止、直ちに廃炉に

6 ふくしま共同診療所が県外初超音波検診

 

県民の被曝障害を顧みず、「復興」をゴリ押しする福島県のゼロ回答は許せません

 ふくしま共同診療所院長 布施幸彦

県民に対する放射線防御対策はなし

福島第一原発事故から今年で7年が経過します。この間の福島県の県民への対応は不誠実としか言いようがありません。新潟県が「福島原発事故の検証なしに柏崎刈羽原発再稼働の判断はできない」という立場をとる中、当事者である福島県は、原発再稼働まっしぐらの政府と一体で復興施策に力を入れるのみで、主体的に原発事故の検証をしているとは到底思えません。
広島・長崎・チェリノブイリの経験からも被曝の影響が、長期にわたることは明らかです。原発事故後、年間の放射線被曝限度が他県の20倍に引き上げられ、そのことがいつの間にか安全基準とすり替えられ、県民に必要な放射線防護対策がまったく取られなくなりました。
しかし小児甲状腺がんまたは疑いの子どもたちは、県の公式発表だけでも194人となり、2000人を超える子どもたちが経過観察とされています。
福島県の対応は危機感が感じられないばかりか、問題意識すらないと疑わざるを得ません。原発事故後、県民の健康を長期に見守るとして始まった県民健康調査検討委員会も「放射能の影響ではない」という立場を明確にしています。
こうしたなか、多くの県民が自力で東京電力、国を相手に裁判を起こす状況となっています。

署名提出への福島県の不誠実な態度

ふくしま共同診療所が中心となって、2016年11月から「被曝と帰還強制反対署名」を行っていますが、2018年1月5日現在で、全国から4万6257筆の署名が集まりました。
私たちは集まった署名をその都度福島県に提出し、昨年夏までに県当局と4回にわたって交渉してきました。しかし県当局の回答はゼロ回答でしたので、2017年11月16日の5回目の提出行動では、私たちの質問を整理して文書化し、事前に県に送りました。
しかし県当局は文書での回答は拒否して口頭での回答となり、やはりゼロ回答でした。この質問事項は、私たちの「被曝と帰還強制反対署名」の要求4項目のキモとなっている福島原発事故の問題点をまとめ上げたものです。
提出された質問書からいくつかの質問を抜粋して、以下に掲載します。
署名を集める際の参考にして頂ければ幸いです。


【県民健康調査検討委員会について】

①県民健康調査検討委員会の委員の構成についてお尋ねします。今期の委員に大阪大学の高野徹氏が新たに選ばれました。高野氏は「小児甲状腺がんの多発は、過剰診断による」と断言しています。また多くの委員は明らかに「放射能の影響を否定している」方です。このような偏った委員構成では、「放射能の影響かどうか」を公正に検討することにはなりません。福島県として公平性をどのように担保していくのか、ご説明をお願いします。
②(略)
③委員の中から「県民からも委員を選出すべき」との発言がありましたが実現されていません。
県民が委員会に関わる必要性についてどのような認識をお持ちなのか、ご説明をお願いします。
④県民健康調査検討委員会では、(中略)当事者である県民・傍聴者にも質疑、意見など発言をする権利があると思います。県民の意見を会議にどのように反映させるつもりなのか、ご説明をお願いします。
⑤(略)【甲状腺エコー検査について】
⑥(中略)小児甲状腺がん及び疑いが194人に上る中、原因も追究せずに放射能の影響だけを否定するやり方では、県民の納得は得られません。検査結果を受けとめ、子どもたち本人のためとして真摯に受診を呼びかけること、指定病院を増やすことが必要であると考えます。福島県の見解をお伺いします。
⑦(中略)原発事故当時に福島県に往往していれば、県外に住民票を移した人も甲状腺検査を受けられるようにすべきだと思います。福島県の見解をお伺いします。
⑧(中略)福島県は、事故前と比べると大人の甲状腺がんが多発していると考えられます。状況と対策について県のご説明をお願いします。
⑨検討委員会の座長を務めていた長崎大学の山下俊一氏が、甲状腺エコー検査を縮小するように福島県知事に申し入れています。検査縮小に対する福島県としての見解をお伺いします。

【避難区域解除について】

⑩(中略)政府や東京電力は「原発は安全だ、事故は絶対に起きない」と言って福島第一原発を稼働させました。しかし2011年に原発は爆発し放射能が福島県と東日本、そして太平洋の広範囲に撒き散らされました。そんな政府や東京電力の言っていることをまた信用して本当に事故もなく安全に「廃炉」に出来ると県は考えているのでしょうか。今年4月には原発周辺の多くの自治体が避難解除され、1割前後ではありますが住民が自宅に帰っています。もし再爆発したら県当局はこの住民を放射能から守ることが出来ますか。少なくとも原発周辺への帰還をただちにやめるべきだと思います。県の見解をお伺いします。
⑪(中略)子どもたちをこれ以上被曝させないためには、学校の再開をやめるべきだと思います。県としての見解をお伺いします。
⑫避難解除された地域では、自治体の職員と家族がそこに住むことを強要されています。(中略)県当局も高汚染地域に行きたくないという県職員と家族を職務命令で行かせるのでしょうか。本人の希望は考慮されるのでしょうか。県の見解をお伺いします。
⑬JR東日本は2020年3月までに常磐線を全面開通させようとしています。(中略)列車が第一原発周辺で脱線などの事故のために停車したら、乗客は線路内を歩いて隣の駅まで行かなければなりません。除染されているのは線路内だけであり、線路の周辺は全く除染されていない高汚染地域です。住民に責任を持つ県としても常磐線の全面開通に反対すべきと思います。県としての見解をお伺いします。

【避難者支援について】

⑭今年3月に国と福島県は、災害救助法に基づく住宅提供を終了しました。(中略)安全なとこるに住みたいという県民の権利は保障されるべきです。住居補助の再開に対する福島県の見解をお伺いします。
あらためて、以下の項目を要求します。

〈要求項目〉
1.被曝の影響を認め、甲状腺検査の全年齢への拡充および、検診・医療の充実をはかることを求めます。
2.法令で定める一般住民の年間1ミリジーベルトの被曝限度以下になるまで、賠償や支援を続け、帰還を強制しないことを求めます。
3.「自主避難者」への住宅補助などの保障の継続と拡大を求めます。
4.すべての原発事故被災者に、行政の責任において避難および保養を保障することを求めます。