被曝・診療 月報 第23号 「被曝と帰還の強制反対署名」を拡げよう

この号の内容

1、『被曝と帰還の強制反対署名』を広げよう
2、第26、27回県民健康調査検討委員会を傍聴して
3、肥田舜太郎先生を追悼します
4、原子力産業における2件の放射線被曝事故
5、福島の現状
6 3.12シンポジウム参加者の感想文

「被曝と帰還の強制反対署名」を拡げよう

  ふくしま共同診療所院長 布施幸彦

はじめに
昨年11月からふくしま共同診療所や動労福島などの諸団体で「被曝と帰還の強制反対署名」を行っています。
署名の提出先は福島県知事で、要求項目は以下の4項目です。
①被曝の影響を認め、甲状腺検査の全年齢への拡充および、検診・医療。充実を図ることを求めます。
②法令で定める一般住民の年間lmSvの被曝限度以下になるまで、賠償や支援を続け、帰還を強制しないことを求めます。
③「自主避難者」への住宅補助などの保障の継続と拡大を求めます。
④すべての原発事故被災者に、行政の責任において避難および保障を保証することを求めます。

これまでに全国で3万5千筆以上の署名が集り、それを福島県に提出し、県と4回直接交渉を重ねてきました。私たちが何故この署名を始めたか、そして何をしたいのかを述べたいと思います。

甲状腺線検査に関して
当診療所は、2012年より福島市で甲状腺エコー検査を行ってきました。福島県では事故後6年間で放射能汚染により小児甲状腺がんが191人と多発しています。福島県は子供たち全員を対象に甲状腺エコー検査を行ってきましたが、昨年から甲状腺エコー検査を自主検査に縮小し、いずれ中止しようと目論んでいます。
福島県立医大の緑川早苗準教授は学校での子供向けの出前授業で「がんが見つかったら嫌だと思う人は、甲状腺検査を受けない意思も尊重されます」と話しています。
昨年12月には県立医大副学長山下俊一氏らが、県知事に「甲状腺検査縮小」を求める提言書を提出しています。それだけでなく、発表されている小児甲状腺がんの数は実は嘘だということもわかりました。
小児甲状腺がん患者を支援している「3.11甲状腺がん子ども基金」は3月31
日に、「事故当時4歳の男児(現在10歳)に療養費を給付した」と発表しました。
この男児は、2014年の甲状腺検査で経過観察(保険診療)となり、2015年に穿刺細胞診で悪性と診断され、2016年前半に福島県立医大で甲状腺摘出手術を受けてがんと確定しています。
この症例に関して福島県県民健康センターは、「2月20日の発表には該当される方はいない。県民健康調査の二次検査で『悪性ないし悪性疑い』となった方のみを検討委員会で報告しているので、経過観察後にがんになった子供は報告していない」と回答し、県立医大も[保健診療移行後に見つかったがん患者は、センターでは把握していない]と述べ、データを公表しなかったことについて「県や検討委員会が決めたルールに従っているだけ」と釈明しました。
経過観察となった人は、1巡目(先行検査)1260人、2巡目(本格検査)1207人、3巡目56人で計2523人。この子らから経過観察中に甲状腺がんが見つかり手術しても、県民健康調査の資料には載らないことが明らかになりました。この件で判ったことは、
①。今まで発表されたがん総数191人は嘘で、実はもっと多いこと。
②二次検査でがんを疑っても、保険診療後に細胞診を行えば、資料には載らなくなる。つまり恣意的にがん患者数を調整出来ることです。

6月5日に行われた県民健康調査検討委員会では、環境省が音頭を取って、IAEAやICRPのメンバーが参加する放射能による健康被害を検討する第三者機関の設置が提案されました、彼らは嘘の小児甲状腺がん患者数を基に、「最初は多かったが、検査毎に減っているのだから、スクリーニング効果だ」と主張して、甲状腺エコー検査を縮小・中止しようとしています。

県内外の避難者への帰還の強制に関して

事故後十数万人が県内外へ避難しました。これまで福島県は「自主避難者」に対し住宅手当の補助を行い、避難先の自治体も県営住宅の提供などの便宜を図ってきました。
しかし、国が避難指示区域を次々に解除し、それを受け福島県は2017年3月で住宅補助の打ち切りを決めました。
それだけでなく、昨年から都道府県の自治体の職員と福島県の職員が県外避難者の自宅を回って「帰還するよう」に説得工作を行いました。
東京都の場合、都職員・区職員・福島県の県・市職員の4人が自宅まで訪問し、「住宅補助の打ち切りと都営住宅の便宜の中止」を通告し、「都営住宅に住みたければ、都に移住し、都営住宅に応募するよう」に話しています。県内の仮設住宅や借り上げ住宅に避難している避難者に対しても、「除染を行った」として年間50 mSv に及んだ高汚染地域の自宅に帰そうとしています。
今年3月31日、4月1日には居住制限区域まで解除され、約3万2000人が帰還の対象となりました。多くの人々は高汚染地区に帰ることを拒否し、このまま仮設住宅や借り上げ住宅に住みたいと思っています。しかし仮設住宅の期限は今年3月まで。このままでは彼らは高汚染地区に帰るしか道はありません。
避難指示の間は、固定資産税等の税金の免除が行われていました。しかし解除となれば、自宅へ帰ろうが帰るまいが固定資産税や光熱費等の徴収が始まります。
浪江町では、2018年から50%、2021年から100%の固定資産税が取られるため、約2000軒が更地になろうとしています。そして東電から出ている精神的賠償金も打ち切られます。
避難指示が解除された故郷に帰りたいという気持ちはよく分かります。 終の棲家として帰りたい人が帰ることはいたし方ないと思います。
しかし、子どもに放射能による健康被害を生じさせないために、困難な生活を覚悟し県内外へ避難した家族に、経済的困窮を強制することによって、放射能汚染の地へ帰そうとする政策は間違っています。彼らには避難する権利があります。
今までに避難指示が解除された地域の住民は1割も帰っていません。そこで楢葉町と南相馬市小高区では、4月から学校の再開を強行しました。楢葉町の町長は、楢葉町に帰ってこない町職員に対して「昇給と昇格はさせない」と宣言しました。また学校が再開されれば、教職員とその家族も高汚染地域に行かなければなりません。自治体職員とその家族も高汚染地区に帰らなければなりません。だから福島県では自治体職員の自殺者が増えているのです。
署名運動の目的に関して、私たちは単純に署名が集まれば、県が動くと思っているわけではありません。
全国で行われた「住宅補助打ち切り反対の署名」は、約20万筆集まりましたが、国や県は無視しました。
署名を集めるだけではダメなのです。署名を県に持って行き、県に圧力をかける。そういうことを繰り返し、署名運動を媒介にして県町村職員、教職員の人たちを立ち上がらせる署名です。
原発事故の一切の責任は国と東電にあります。国と東電に県内外の避難者の生活の保障、健康の保障をさせましょう。各都道府県で、県外の「自主避難者」とつながって、守る運動をおこしましょう。各都道府県の知事・市町村長や職員組合に働きかけましょう。彼らに動いてもらわないと、「自主避難者」を守れません。
私たちは、県内の避難者を守るために、県内の自治体職員や県教組に働きかけます。彼らを説得し立ち上がってもらい、避難者を守ろうと思っています。

一何故国や県は甲状線査縮小・帰還の強制をしようとしているのか

安倍政権は何故、状腺検査縮小・帰還の強制をしようとしているのか。安倍首相は「原発事故は終わった」と原発の再稼働を行い、2020年までに常磐線を開通し、50mSvに及んだ居住制限区域を含めて解除し、高汚染地域に住民を帰そうとしています。
その一環として甲状腺検査縮小もあります。もし甲状腺検査をこのまま続けて小児甲状腺がんが今後も増えていけば、そして県内外の避難者の多くが高汚染地区に帰らなければ、「原発事故が終わった」ことは、嘘だと世界中の人々にも分かってしまいます。そうなれば、安倍首相は「放射能はアンダーコントロール」と言って東京オリンピックを誘致したのですから、2020年に行おうとしている東京オリンピックは出来なくなります。
先に行われた国会では、東京オリンピックのために「共謀罪」は必要だと言い出し、「共謀罪」を成立させました。それだけでなく、2020年には憲法9条の改憲を行うと宣言しました。東京オリンピックを「成功」させることで、改憲まで行おうとしています。
福島原発事故の「収束」こそがすべての鍵なのです。だから、この「被曝と帰還の強制反対署名」運動が全国で爆発し、福島原発事故は終わっていない、これからが本番なのだ、ということが、日本中にそして世界に広まれば、東京オリンピックは出来なくなります。そうなれば安倍政権は終わり、日本が変わります。それを信じて「被曝と帰還の強制反対署名」を行っていきたいと考えています。