1 医学的根拠のない『福島安全論』を批判する
2 反核運動と「原子力の平和利用」論は両立しない
3 福島の現状を知り柏崎を考える
4 福島の現状一国道6号線線量測定②
5 第31回福島県民調査検討委員会傍聴記
医学的根拠のない『福島安全論』
一福島県保険医協会・松本純理事長を批判するー
本町クリニック院長 杉井吉彦
広島・長崎への原爆投下から73年が経過します。2011年3月に引き起こされた東電福島第一原発事故からも7年半となりました「避難・保養・医療」の原則を掲げて、ふくしま共同診療所での医療を続ける中で、「被曝に対する医療」のあり方について得るものは大きなものでした。それは、原爆と原発とは本質的には同じものであり、したがって、「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・チェルノブイリ・フクシマを、決して繰り返すな」という考え方になってきました。肥田舜太郎医師も「広島・長崎・福島jという考えを生前述べておられました。
この考え方と全く反対に、「広島・長崎と福島は別」と考え、「福島は安全」と根拠なしに主張するのが、福島県保険医協会理事長で生協いいの診療所所長の松本純医師です。彼は『全国保険医新聞』の5月15日号に「福島からの報告」として、編集部からの要請で「寄稿」を寄せています。
「福島は安全だ」と強要する
もっとも特徴的なのば「先生どっち派ですか」と批判されたのを、全く痛みとして感じてなく県民の思い・考えを踏みにじっていることです。「福島県民の放射線障害に対する不安は続き‥‥福島県を去る人々が相次ぎ‥‥当時は住民の要望もあって放射線学習合が開かれました。安全を強調するための学習会で、危険を警鐘する学者・研究者の両極論が飛びかった‥‥私も依頼されて講演しました。私か『絶対的に危険か安全かではなく、いずれもそれなりの対策が必要です』と説明しても参加者は納得されず」となり、前述の『どっち派ですか』という批判を受け、それに対して「と問うてくるせっばつまった状況でした」としか書かれていません。健康被害・医療に対して『いずれそれなりの対策が必要』と答える態度は、福島は安全と全く一方的に思い込んでいるからこそ、出てくる言葉なのであり、県民の『患者』の思いを踏みにじる医療者として絶対にやってはならない行為(医療)と考えます。
根底に『福島安全、したがって健康被害など起こらない』と考えているために、小児甲状腺がん多発に関しても、「現在無症状で発見されている甲状腺がんの多くは乳頭がんであり‥‥遺伝子型が、BRAFタイプが多いことから、放射線起因性は今のところ否定的と思われます」と、何の医学的な根拠も参照も明らかにすることなく『今のところ』と限定しながら、科学的装いすら加えることもなく、全否定している。「しかし放射線との関係を解明するためには今後とも長期に検査を継続する必要があり、福島県民の理解を得ることが大切です」と語っている。
検査の縮小を後押しする
『福島県民の理解を得ることが大切』とは何か。調査検討委員会が検査の縮小・廃止に向かって攻勢をかけている現段階で『理解を得ること』とは、検査の縮小を後押しして、県民に対する「理解=強制」の先導者になろうと表明しているのです。「いいの診療所でも全日本民医連からの支援を受けて」(保険医新聞は保険医協会の機関紙で民医連は別にもかかわらず)「甲状腺エコー検診を行いました」と言っているが、確認された限りでは、県民の切望に押されてほんの少数の検査実施を「大げさに」書いているのです。かつて松本医師は『健康被害を大げさに言う人々』がいると保険医協会の総会で発言した経緯がありました。ふくしま共同診療所と彼のいずれが正しいか、いずれが県民の要望にこたえているのかは明らかだと思っています。
このような『寄稿』を要請した、保険医新聞の編集局の方針はあまりにも公正さを欠いています。責任は重大です。
【付記‥お詫びと訂正‥『月報』第28号の『松江先生の追悼文』の中で「医学連」=「全日本医学部学生自治会連合」としましたが、「医学連」の正式名称は「全国医学生連合」が正しく、お詫びして訂正します。複数のご購読者から指摘を受けました。もちろん全国医学生連合が60年安保闘争では圧倒的多数派であり、その委員長としての戦闘性は、晩年に至るまで保持し続けられたことは言うまでもありません。福島の記者会見で「山下なんかはギロチンだ」と言ったのを鮮明に記憶しています】