被曝・診療 月報 第27号 超音波健診の拡充で県民の健康を守ろう

この号の内容
1 隷従の「科学」―学術会議声明に接して思う
琉球大学名誉教授 矢ヶ崎克馬
2 避難者の健康を守るために
避難者の健康を守る会 森永敦子
3 院内集会「多発する子どもの甲状腺がん―福島県民健康調査はこのままで良いのか―」に参加して
本町クリニック事務長 鈴木健一
4 福島とハンフォード 中間貯蔵施設、イノベーションコースト構想から見る福島浜通りの現状超音波健診の拡充で県民の健康を守ろう ――岡山 浩

 

本町クリニック院長 杉井吉彦

3・11東日本大震災・福島第一原発事故から7年、ふくしま共同診療所開設から5年が経過しました。
福島県からの県外避難者は依然として復興庁の2月末の発表ですら3万4千人(自主避難者はカウントされなくなっている)にのぼる。うち1万3千人は「親族・知人宅等」に分類されています。
昨年10月で市町村が「把握している」18才未満の子供の避難者は、県内8千人、県外1万人である。この年齢層の全員に行うはずであった甲状腺検査は、実施者の怠慢と、意識的な「段階的縮小」方針によって、3巡目の検査の実施率は60%以下になっている。18才を超えている県民に対する甲状腺検査は20%前後である。早期発見・治療の原則が危うくなるような水準になっている。すでに、統計学的な評価が困難になってきており、実質的な『縮小状態』といわざるを得ません。
法律的な、耐用の2年をはるかに超えた「避難住宅」になお5千人以上が住まわされています。「震災関連死」は2200人を超えて年2~300人で増加し続けています。これが福島の現実です。

小児甲状腺がんは増えている、健診の縮小はすべきでない

小児甲状腺癌問題は、ますます深刻度を加えています。3月5日の第30回県民健康調査検討委員会の発表でも新たな腫瘍発生が報告されています。検討委員会の発表以外でも何人も癌患者がいることがわかっていて、健診から「保険扱い」になった後で発生したケースも全く発表されていません。
さらに、1月26日開催の第9回『甲状腺検査評価部会』の公式報告では、「甲状腺検査にはデメリットがあり、全くなくすというのは難しいのではないか。いかにして検査による不利益を少なくするかを考える必要がある」などとの発言が「報告」されている。健診を、縮小・廃止の方向に大きく舵をきっていることは、明らかです。
「安全・安心・帰還・復興」の大方針の下、安全性に全く根拠のない20㍉シーベルト基準での避難指示解除・帰還強制は、「住宅空け渡し裁判」という法的な強制力で進行している。その理不尽な方針に対して、多くの県民が帰還を拒否している。昨年4月に解除された3万1千人に対して2月末の段階で1800人、人数が最大の浪江町での帰還率は3.2㌫に過ぎません。多くの県民が「健康と命」の問題を、生活と人生をかけて拒否し続けています。

「避難・保養・医療」の原則で、県民の健康と命を守ろう

現在、問われている最大の争点は、この「健康と命」問題です。原発による放射線障害が存在するのか、現在も進行しているのか、将来はどうなのか、この問題をめぐって激しい分岐が起こっています。私たちは、甲状腺癌の多発を認め、これが放射線障害によるものとして認め、強靭な対策を立てるべきとの立場です。将来の健康被害は起こるという立場です。長期にわたり福島県民と多くの人々の健康を守り抜く立場です。このことを認めようとせず、放射能は「安全だ。危険というのは『差別』」という人々は、許すことができません。
だからこそ「避難・保養・医療」の原則が、今こそ福島の地で必要とされていると思っています。避難を続けている人々を支援し、健康を守りぬかねばなりません。保養をもっと大きく広く拡大していかねばなりません。常磐線の延伸に伴う、多くの労働者に対する被曝労働強制を許してはなりません。
「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・チェルノブイリ・フクシマ」を繰り返してはなりません。原爆・核武装・原発・再稼動は一連のものであり、人類と共存できるものではありません。この5年間のふくしま共同診療所の経験が、これを実感・得心するものでした。