被曝・診療 月報 第34号  甲状腺超音波検査を今こそ充実させよう

この号の内容

① 甲状腺超音波検査を今こそ充実させよう
② ふくしま共同診療所と共に歩む会結成のつどい開かれる
③ Letter fromヒロシマ
④ 第35回県民健康調査検討委員会レポート
⑤ 7月7日「医療シンポジユウム」に参加して

 

甲状腺超音波検査を今こそ充実させよう

 本町クリニック院長 

検討委員会で『中間まとめ』公表延期

7月8日「第35回福島県民健康調査検討委員会」が開かれました。詳細は本号の他の記事でも報告されていますが、あまりにもひどすぎる会議の内容・結論の公表として歴史に残ると思います。
「甲状腺検査評価部会」の「甲状腺本格検査(検査2巡目)結果に対する部会まとめ」を基に結論的に「本格検査[2巡目で発見された甲状腺がんと放射線被曝の間の関連は認められない]・・・2巡目だけの検査での結論で「認められない」と所定してしまっている。「本格検査における甲状腺がん発見率は、先行検査よりもやや低いものの、依然として数十倍高かった」としながら、批判の強い放射線に関する国連科学委員会(UNSCERA)の「推計甲状腺吸収線量」を用いて「線量と甲状腺がん発見率に明らかな関連は見られなかった」と断定(推定!)している。「男女比がほぼ1対1となってり、臨床的に発見される傾向(1対6程度)と異なる」としながら、「評価は今後の課題として残されている」と全く、医学的・統計学的に考えられない結論を導き出しています。
会議は、様々な傾向の、異論・反論で分裂状態となり、全会一致とはならなかったのも事実です。しかしながら、全体的には「甲状腺検査不要・縮小」の方向に向かって一段と進んでいったことは間違いありません。

早期発見・早期治療ーがん治療の常識通ぜず

それからよく示したものとして県の「甲状腺検査のお知らせ文改定案」の公表です。検査を受けようとする県民に配布される統一した文書で、ここには{縮小・廃止}したい意図がはっきりと見えます。それによると、そもそも検査は「県民の不安に応えるために始まりました」(癌の早期発見のためではないのだ)とし、「検査にはメリットとデメリットの両面があります」論が主要な主張となっている。「デメリットとしては、一生気づかずに過ごすかもしれない無害の甲状腺がんを診断・治療する可能性」(あくまで可能性であって、「無害」かどうかを発見された癌で、確定することが不可能であるという、甲状腺がん治療上の医療常識を知らせようとしていない)。
さらに、「治療に伴う合併症が発生する可能性」がデメリットと主張しています。驚くべきことに癌治療において「合併症が発生する」ことが、癌検査・治療を受ける人々の医療上の利益にならないと考えているのが、多数派だと考えているのだろうか。そうでなければ、「発生する可能性」で検査をやめろと脅迫していると指摘されても、反論できないと思われます。そして「結節やのう包が発見されることにより不安になるなどの心への影響」がデメリットとしていることは、全く理解できません。「核惨事」によって心身ともに傷害を受け・受け続ける状況にある子供たちにとって、発見して治療して健康を守り抜こうとしている県民にとって、「発見されることによって不安」などと、人々の苦痛と不安に「検査しないように」と呼びかける立場は、医師にとって、あってはならないことと考えます。
いずれにせよ、現実的には、甲状腺検査は減少を続けており、とりわけ18歳以上(25才まで)の受診者は10%で、発見が遅れるケースが増加することが考えられ、福島を離れている県民に対する検診は長期にわたって全国的な規模で行う必要があるのは多言を要しません。福島県で「指定」した他府県の甲状腺検査機関は、2~3ヶ所が多く、充分ではありません。さらに成人の甲状腺検査の必要性も県内外において絶対に必要だと思っています。
現実に、検査を希望する成人が増加しています。これらの要求に絶対に応えねばなりません。
こと甲状腺だけでも「縮小・廃止」ではなく、長期で膨大な数の検査をやり遂げればならないと思います。事態はきわめて深刻で、全力で「避難・保養・医療の原則」を貫かねばなりません。