被曝・診療 月報 第35号  福島原発事故の終息宣言となる東京オリンピツクに反対する

この号の内容
1 福島原発事故の終息宣言となる東京オリンピックに反対する
2 ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・チェルノブイリ・フクシマをくり返すな
3 福島県浪江町・飯館村における放射線調査の報告
4 福島の現状と課題:土山元美医師の講演を聞いて

 

福島原発事故の終息宣言となる
東京オリンピツクに反対する

一放射能被害から福島県民の命を守るためにー

ふくしま共同診療所院長 布施幸彦

国連人権理事会の勧告はlmSV以下が基準

 昨年10月、国連人権理事会のトゥンジャク氏が日本政府に「福島への子どもの帰還見合わせを求める」勧告を行いました。
福島原発事故のあと、日本政府が避難指示を解除する基準の1つを年間の被ばく量20mSV以下にしていることについて「人権理事会が勧告した1mSV以下という基準を考慮していない」「日本政府の避難解除の基準ではリスクがある」「子どもたちや出産年齢の女性の帰還を見合わせるよう」求めたというものです。
これに対して、日本政府は、国際的な専門家団体の勧告に基づいていると反論し、その上で「帰還を見合わせるべき」という指摘については、「子どもたちに限らず、避難指示が解除されても帰還が強制されることはなく、特別報告者の指摘は誤解に基づいている」と反論し、国連人権理事会と日本政府との立場の違いが浮き彫りになりました。

住宅手当を打ち切るなどの「帰還を強制」する政策

政府は「帰還を強制していない」と言っていますが、年間20mSV以下の地域の避難指示を解除し、学校を再開し、住宅手当の補償を打ち切り、県外への自主避難者をそれまで住んでいた住居から追い出し、2020年3月には帰還困難区域住民の住宅補助さへ打ち切ります。この政策は「帰還の強制」そのものです。そして2020年3月に常磐線を全面開通させ、「福島原発事故はなかった」ことにし、東京オリンピックを福島で開催しようとしています。

困窮している被災地へ3兆円を回すべき

東京オリンピックは、安倍首相が「健康被害は今も将来にわたってもない」「事故はアンダーコントロール」と言って招致しました。費用は8000億円と当初は言われていましたが、今は3兆円を超えると見積もられています。こんな多額なお金をオリンピックに費やす必要があるのでしょうか。
ギリシャは、アテネ・オリンピックを行った後に破産しました。長野オリンピックで、長野県は1兆4439億円の借金を背負いました。日本も東京オリンピック後は多額の借金を背負うことになります。
それでも3兆円ものお金を使うというなら、東日本大震災・熊本地震・北海道地震・西日本豪雨災害などで被災した人々の支援や原発事故で被ばくした人々に使うべきです。

被曝隠しの国を誇れるのか

東京オリンピックまで後1年を切りました。東京都は、小・中・高校でオリンピック・パラリンピック教育を35時間/年行っています。
その内容は、①ボランティアマインド、②障害者理解、③スポーツ志向、④日本人としての誇り、⑤豊かな国際感覚、を育むという内容です。
東京都はオリンピック・ボランティアを募集しました。「ボランティア」良い言葉ですが、別の言い方をすれば、ナチスドイツの[労働奉仕]、戦前の日本の「国民勤労報国協力。です。
東京オリンピックの効果について、NHKのスポーツ担当解説委員は「第一に国威発揚」と言っていました。ナチスドイツのベルリン・オリンピックと同じです。震災復興を印象付ける取り組みとして、福島から聖火リレーを開始し、野球・ソフトボール競技を開催することになっています。

IPPNWドイツ支部が「放射能」五輪開催の被曝を懸念

IPPNW(核戦争防止国際医師会議ドイツ支部)がTokyo 2020 Die radioaktiven Olympischen Spiele(2020年東京「放射能」オリンピック)という声明を出しています。
内容は以下の通りです(要約)。
参加するアスリートと競技を見物する観客たちがフクシマ近郊で被ばくするのではないかと懸念している。特に放射線感受性の高い妊婦や子供たちが心配です。日本政府は、この五輪開催には最終的に120億ユーロかかると予測している。しかし日本政府は、避難指示解除後、故郷に帰還しようとしない避難者たちには支援金の支払いを止めている。IPPNWは、放射能に汚染された地域にあたかも「日常生活」が戻ったような印象を世界に与えようとする日本政府に対しはっきり「ノー」を突きつけます。

「原子力緊急事態宣言」を解除する努力が急務

また、元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏は「フクシマ事故と東京オリンピック」という声明でこう書いています(要約)。
日本はいま「原子力緊急事態宣言」下にある(平常時は一般人の被ばく量は年間1mSV以下、しかし 原発事故で緊急事態となったので、年間20mSV以下まで許容)。環境を汚染している放射性物質の主犯人はセシウム137であり、半減期は30年。 100年たっても10分の1。この日本という国は、これから100年たっても、「原子力緊急事態宣言」下にある。
五輪はいつの時代も国威発揚に利用され・・・。
箱モノを作ってば壊す膨大な浪費社会と、それにより莫大な利益を受ける土建屋を中心とした企業群の食い物にされてきた。大切なのは「原子力緊急事態宣言」を早く解除できるよう、国の総力を挙げて働くこと・・・。事故の下で苦しみ続けている人たちの救済こそ、最優先の課題・・・、少なくとも罪のない子どちたちを被げくから守らなければならない。それにも拘わらず、この国ぷ五輪が大切だという。フクシマを忘れさせるため、マスコミは今後ますます五輪熱を流し、五輪に反対する輩は非国民だと言われる時が来るだろう。先の戦争の時もそうであった。罪のない人を棄民したまま五輪が大切だという国なら、私は喜んで非国民になろう。原発を再稼働させ、海外にも輸出する。原子力緊急事態宣言下の国で開かれる東京五輪。それに参加する国や人々は、もちろん一方では被ばくの危険を負うが、一方では、この国の犯罪に加担する役割を果たすことになる。

政治に翻弄される五輪、もう止めよう

全世界のアスリートが集まり技を競うオリッピックは素晴らしい大会だとは思います。しかしオリンピックの歴史は、政治史にまみれています。
1936年のナチスドイツのベルリン、1976年のモントリオールでは22ヶ国のアフリカ諸国がボイコット、1980年のモスクワではアメリカ・西ドイツ・日本などがボイコット、1984年のロサンゼルスでは東ヨーロッパ諸国がボイコットを行っています。
日本は原発事故によって汚染されました。その地でオリンピックを行うのは間違っています。オリンピックを行うことより先にやるべきことがあります。IPPNWや小出氏の提言のように、私はオリンピックを返上すべきだと思っています。それで非国民と言われるなら私も喜んで非国民になりましょう。