被曝・診療 月報 第32号  被ばく8年目の現実と向き合う

この号の内容
1 被ばく8年目の現実と向き合う第3回シンポジウムヘ
2 脱原発は福島から~分断を乗り越えるために
3 ふくしま共同診療所と共に命を守る:佐藤幸子さん
4 第33回県民健康調査検討委員会 傍聴記
5 高野徹委員を尖兵とする甲状腺評価部会などの惨状

被ばく8年目の現実と向き合う

一第3回被曝・医療福島シンポジウムヘご参加の呼び掛けー
ふくしま共同診療所院長
布施幸彦

今年の3月11田こ福島第一原発事故から9年目になります。原発事故で被ばくした福島県民に寄り添う医療をするために2012年12月1日に開院した当診療所も6年3か月となります。診療所の経営状況は今も余り良くありませんが、診療所を支えようとして下さる全国・全世界の人々のお陰で、今まで診療を続けて来られました。最初に感謝申し上げます。

診療所の6年間の活動

診療所は、「避難、保養、医療」の原則を掲げ、開設以来様々な活動を行って来ました。理由は、被ばくした人々の健康を守り、東京電力と国に全責任を取らせ、全国・全世界から原発をなくすためです。
①子供だけでなく大人も含め約3、000人の甲状腺エコー検査と健康相談。
②原発事故のために避難を余儀なくされ仮設住宅で暮らす住民を対象にした健康相談と個別訪問診療。
③除染労働者や原発労働者等の被曝労働を行っている人の検診と治療。 ④全国の保養施設の紹介と連携。
⑤福島の現状を全国・全世界に伝える講演活動、ほぼ月に1回講演を行い、2017年には韓国の国会議員会館で講演しました。
⑥全世界の反核・反原発組織との連携。
⑦県内外の避難者への支援。第2回被曝・医療福島シンポジウム
⑧「被曝と帰還の強制に反対する」署名活動、今までに62、811筆を集め、県当局と6回の交渉を重ねてきました。
⑨県内・県外での無料甲状腺エコー検査。
診療所は、活動の集大成として「被曝・医療 福島シンポジウム」を2015年から2年に1回行っています。今年第3回目を行います。

第1回シンポジウム

第1回目は2015年3月8日に行いました。講演者は4人。私か最初に「放射能による小児甲状腺がんの多発と原発再稼働」と題して発言し、次に「子どもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」代表の山田真氏が、医学データーは立場の違いでいろいろ解釈される余地があるので、被ばくした県民の立場に立つことが肝心という観点で発言。3番目に韓国で中間貯蔵施設建設反対運動を担われた反核医師の会・東国大医学部教授のキム・イクチュン氏が放射線被ばくに闇値は無く「福島は住むべき場所ではない」と直言し、最後に元国会事故調査委員で3.11甲状腺がん子供基金代表理事の崎山比早子氏が、放射線による非がん性疾患、特に免疫系への影響について述べられました。

第2回シンポジウム

2017年3月12日に第2回が行われ、この時の講演者も4人。最初に広島大学原爆放射線医学研究所の天龍滋氏が「放射性微粒子曝露原因説で解ける原爆被爆者における健康リスクのパラドックスーフクシマの皆さまへの提言-」と題して、放射性微粒子による内部被曝について発言されました。次に東国大医学部キム・イクチュン教授が最初に「大統領を罷免した国・韓国から来ました」と挨拶し、「韓国の原発周辺における疫学調査]と題して、原発周辺で甲状腺がんが多発しており裁判所がその原因は原発にあると認定したことを報告し、疫学調査の重要性を強調しました。3番目に山田真氏が、「今私たちがしなければならないこと」と題して、[この6年間福島では闘いらしい闘いはなかった]「この状況を打開するにはどうすれば良いのかを皆で考えていこう_と話されました。最後に私か「被ばくの強制とたたかいの最前線から」と題して、2020年東京オリンピックと甲状腺検査縮小・高汚染地区への帰還の強制の背景、甲状腺超音波検査の縮小、避難者の住宅支援打ち切り・帰還の強制、「被曝と帰還の強制反対署名」の取り組みの4点を話しました。

「被ばくはゼロしか許されない」と主張され続けた松江寛人前院長

実行委員長は、過去2回とも昨年3月11日に逝去された松江寛人前院長でした。松江先生は、全国医学生連合で委員長を務め60年安保闘争を中心的に闘い、卒業後は国立がんセンターで放射線診断部部長となり日本の放射線診断の重鎮として活躍されました。2011年3月11日に原発事故が起き、被ばくによる健康被害から住民を守る診療所を作ろうとした時に、76歳の先生が初代院長を引き受けて下さり診療所は出来ました。放射線科の医師の先生の口癖は「放射能による被曝はゼロしか許されない」。このシンポジウムも放射能汚染による健康被害の実態を広く世間に訴えねばならないとの先生の信念から生まれたものです。その意思を引き継ぐ思いを込め一周忌に当たる2019年3月10日(日曜日)に3回目を行います。実行委員長は、不肖私が務めます。

第3回シンポジウムが提起すること

今回は講師に十分に話してもらうために演者を3人に絞りました。講師と講演内容について簡単にご紹介させていただきます。
1人目ぱ、沖縄での避難者支援などでご活躍の琉球大学名誉教授矢ヶ埼克馬氏。矢ヶ崎氏には「ICRP(国際放射線防御委員会)を科学の目で批判するレT仮題〕こについてお話をして頂きます。
2人目は、福島県原町区小高町で精神病院院長として相双地区地域医療を担うさなかに原発事故が起き、そのすべてを失いながらも政府・東京電力と渡り合い、新たに新地町に精神科クリニックを開設した渡辺瑞也氏です。先生には自著「核惨事」の内容に沿ったお話をして頂きます。
3人目は、韓国反核医師の会キム・イクチュン東国大医学部教授です。「ろうそく革命」でパク・クネ政権を倒し たムン・ジェイン政権下の原発政策についてお話をして頂く予定です。キム先生を3回連続お呼びしたのには理由があります。私たちはこのシンポジウムを単に日本だけのシンポジウムにせずに、全世界の反核・反原発を担う医療者の国際連帯の場とするという目標があります。反核・反原発は一国ではできません。国際連帯の闘いが必要です、だから韓国民衆との連帯を込めてキム先生に講演をお願いしました。また参加は叶いませんでしたが、PNW(核戦争防止国際医師会議)ドイツ支部のアレックス・ローゼン氏に毎回ビデオメッセージをお願いしています。
今回のシンポジウムが原発事故より9年目となる福島の現実と向き合い、課題を共有しながら、皆さんと共に考える機会になればと考えております。
ご多忙とは存じますが、ご参加・ご賛同を宜しくお願い申し上げます。

<テーマ>  事故より8年 福島の現実と課題

と き: 2019年3月10日(日)  午後1時半より
ところ: コラッセふくしま  多目的ホール (4階)
託児室は 和室1(3階) 駐車場は近隣のPをご利用ください

<講師のご紹介>
●矢ケ崎 克馬 氏

ICRP(国際放射線防護委員会)を科学の目で批判する
琉球大学名誉教授 物性物理学
認定原爆症集団訴訟で証言
著書『地震と原発 今からの危機』
『内部被曝』
『隠された被曝』
●渡辺 瑞也 氏
被災当事者にとっての東電原発事故
~健康被害と損害賠償問題を中心に~
医療法人 小高赤坂病院 理事長・院長
著書『核惨事』
●キム イクチュン 氏 
ムン・ジェイン政権下の原発政策について
韓国・東国大学医学部教授
前原子力委員会委員
反核医師の会運営委員

被曝・診療 月報 第27号 超音波健診の拡充で県民の健康を守ろう

この号の内容
1 隷従の「科学」―学術会議声明に接して思う
琉球大学名誉教授 矢ヶ崎克馬
2 避難者の健康を守るために
避難者の健康を守る会 森永敦子
3 院内集会「多発する子どもの甲状腺がん―福島県民健康調査はこのままで良いのか―」に参加して
本町クリニック事務長 鈴木健一
4 福島とハンフォード 中間貯蔵施設、イノベーションコースト構想から見る福島浜通りの現状超音波健診の拡充で県民の健康を守ろう ――岡山 浩

 

本町クリニック院長 杉井吉彦

3・11東日本大震災・福島第一原発事故から7年、ふくしま共同診療所開設から5年が経過しました。
福島県からの県外避難者は依然として復興庁の2月末の発表ですら3万4千人(自主避難者はカウントされなくなっている)にのぼる。うち1万3千人は「親族・知人宅等」に分類されています。
昨年10月で市町村が「把握している」18才未満の子供の避難者は、県内8千人、県外1万人である。この年齢層の全員に行うはずであった甲状腺検査は、実施者の怠慢と、意識的な「段階的縮小」方針によって、3巡目の検査の実施率は60%以下になっている。18才を超えている県民に対する甲状腺検査は20%前後である。早期発見・治療の原則が危うくなるような水準になっている。すでに、統計学的な評価が困難になってきており、実質的な『縮小状態』といわざるを得ません。
法律的な、耐用の2年をはるかに超えた「避難住宅」になお5千人以上が住まわされています。「震災関連死」は2200人を超えて年2~300人で増加し続けています。これが福島の現実です。

小児甲状腺がんは増えている、健診の縮小はすべきでない

小児甲状腺癌問題は、ますます深刻度を加えています。3月5日の第30回県民健康調査検討委員会の発表でも新たな腫瘍発生が報告されています。検討委員会の発表以外でも何人も癌患者がいることがわかっていて、健診から「保険扱い」になった後で発生したケースも全く発表されていません。
さらに、1月26日開催の第9回『甲状腺検査評価部会』の公式報告では、「甲状腺検査にはデメリットがあり、全くなくすというのは難しいのではないか。いかにして検査による不利益を少なくするかを考える必要がある」などとの発言が「報告」されている。健診を、縮小・廃止の方向に大きく舵をきっていることは、明らかです。
「安全・安心・帰還・復興」の大方針の下、安全性に全く根拠のない20㍉シーベルト基準での避難指示解除・帰還強制は、「住宅空け渡し裁判」という法的な強制力で進行している。その理不尽な方針に対して、多くの県民が帰還を拒否している。昨年4月に解除された3万1千人に対して2月末の段階で1800人、人数が最大の浪江町での帰還率は3.2㌫に過ぎません。多くの県民が「健康と命」の問題を、生活と人生をかけて拒否し続けています。

「避難・保養・医療」の原則で、県民の健康と命を守ろう

現在、問われている最大の争点は、この「健康と命」問題です。原発による放射線障害が存在するのか、現在も進行しているのか、将来はどうなのか、この問題をめぐって激しい分岐が起こっています。私たちは、甲状腺癌の多発を認め、これが放射線障害によるものとして認め、強靭な対策を立てるべきとの立場です。将来の健康被害は起こるという立場です。長期にわたり福島県民と多くの人々の健康を守り抜く立場です。このことを認めようとせず、放射能は「安全だ。危険というのは『差別』」という人々は、許すことができません。
だからこそ「避難・保養・医療」の原則が、今こそ福島の地で必要とされていると思っています。避難を続けている人々を支援し、健康を守りぬかねばなりません。保養をもっと大きく広く拡大していかねばなりません。常磐線の延伸に伴う、多くの労働者に対する被曝労働強制を許してはなりません。
「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・チェルノブイリ・フクシマ」を繰り返してはなりません。原爆・核武装・原発・再稼動は一連のものであり、人類と共存できるものではありません。この5年間のふくしま共同診療所の経験が、これを実感・得心するものでした。