被曝・診療 月報 第31号   県民の命と健康を守るたたかいは「復興」オリンピックを許さない

この号の内容
1 県民の命と健康を守る闘いは「復興」オリンピックを許さない
2 国際キャンペーン:東京2020 -放射能オリンピック
3 公演日誌in大阪
4 学校健診打ち切りの動きを押し返した「福島の怒り」
5 トリチウムの海洋放出は危険である

県民の命と健康を守るたたかいは「復興」オリンピックを許さない

-「2020東京汚染オリンピック」国際キャンペーンに応えてー

本町クリニック院長 杉井吉彦

東日本大震災と福島第一原発事故は歴史上かってない『核惨事』事態でした。
7年半が経過し、多くの人々思いは、「ヒロシマ・ナガサキ・フクシマである以上、核・原発と人類は共存できない」「福島の現実から考えると、原発の再稼動にまったく同意できない」「原発はすぐさまでも廃絶すべき」と思っています。
現在に至るまで、国際的基準ですらない年間20mmシーベルト以下での「強制避難」解除に対して、80数%以上の人々が「安全・安心ではない」と、生活と健康をかけて拒否し、避難を続けている現状があります。そして、福島における、被曝・健康障害が、「小児甲状腺がんの多発」として現れ、福島県民の命と健康を守らなければならないとの声が、「避難・保養」に対する多くの実施・協力・支援の運動として全国に広がっています(年間1万5千人以上が保養に行くと思われます)。
そうした中で、原発の再稼動、原発輸出を推進する安倍政権は、避難計画の未完成(病院・介護施設の避難計画などできるわけがありませんが)にもかかわらず、住民の反対を押し切って、再稼動などを強行しつつあります(5㌔範囲内の住民に、『抗甲状腺剤』を予防的に配布する。 11月に原子力規制委員会決定。それによって、原発の安全性を自ら否定している)。
そして、「復興オリンピック」と銘打って、2020年に東京オリンピックが開催されようとしています。安倍首相の誘致発言「事故はアンダーコントロールされている」「現在も未来も健康障害は起こらない」は、全く、現実とかい離しています。汚染水の大量貯蔵(海への放出を狙っています)、「暫定」除去施設の未完成、除染物の放置、915万袋のフレコンパック。更に、もっとも危険な汚染デブリの除去は未だ「目途さえ」立っていません。
さらに、全県を回るとされる聖火リレーに駆り出される県民にとって、路上は汚染除去したとして、数メートル、数十メートル先の森林は全く除染されていません。「放射能汚染が循環する森」をみて下さい。放射能風雨は否応なしに襲いかかります。被曝なしとは絶対にいえません。更にオリンピック球技アスリートはどうなのでしょうか。誘致・開催の前提が全く崩壊しています。さらに新たな被曝の危機に200万県民を晒すのです。にもかかわらず、あえて『復興オリンピック』と称し、特例として福島県内での球技の開催と、オリンピック聖火リレーの出発点として(ギリシャでの採火式を3.11前後に設定する)、「福島の安全・安心」を押し付け、現実を覆い隠そうとしています。
世界の人々、とりわけ命と健康を守る医師たちは、オリンピックの日本での開催に多くの疑問を持つのは当然と言えます。本号に全文を掲載した、アレックス・ローゼン小児科医師(1回目、2回目の被爆・医療福島シンポジウムに発言を寄せていただいている)らの「IPPNW核戦争防止国際医師会ドイツ支部キャンペーン」が「2020東京『汚染』オリンピック」で世界に呼びかけています。
極めて、現実をよく把握した提言だと思います。一点だけ「日本政府は、避難解除後、故郷に帰還しようとしない避難者たちには支援金の支払いを止めると脅しています」となっていますが、事態は進んでおり、現在すでに「脅し」ではなく、支払いを止めつつあります。これにたいして、避難者は支援金の継続や増額を求めて裁判に訴えています。山形の雇用促進住宅に入居している避難者にたいしては、「退居せよ」と、裁判に訴えています。入居者は、訴える資格もない事業団に対し、受けて立つと理不尽なやり方を弾劾しています。
このキャンペーンの中で「日本の汚染地域が平常状態に復帰したことを装おうとする日本政府の試みを強く弾劾する」ことは、多くの心ある世界の人々の共通の思いだと考えます。
私は、この国際キャンペーンに賛同し、国内外の医師、医療関係者の賛同を勧めたいと思います。よろしくお願いします。
(※国際キャンペーン正文は今号に載せました。賛同の旨を是非、月報編集部または福島共同診療あてにお寄せ下さい。)

国際キャンペーン
“Tokyo2020 ? The Radioactive Olympics”

“東京2020 一 放射能オリンピック”

2020年に日本は、世界中のアスリートに東京オリンピックヘの参加を呼び掛けている。私たちは、選手たちが偏見なく平和的に競技できる期待すると同時に、野球とソフトボール競技が、崩落した福島第1原子力発電所から50Kmの福島市で計画されることを憂慮している。 2011年この地で複数の原発がメルトダウンし、放射能が日本列島と太平洋に拡散した。チェルノブイリの核メルトダウンに唯一匹敵する核惨事となった。

この惨事の環境的・社会的な帰結は、この地の至るところで確認できる。多くの家族がその先祖伝来の家から引き剥がされ、避難区域はさびれ、汚染上が詰められた数十万のバッグ(フレコンバック)が至るところに放置され、森林・川。湖は汚染されている。日本は平常状態への回帰なされていないのだ。

原子炉は危険な状態に置かれており、更なる核惨事がいつでも起こりうる。海洋、大気、土壌への放射能汚染は毎日続いている。膨大な核廃棄物が原発敷地内の野外に保管されている。もしもう一度地震が起これば、これらが住民と環境に重大な危険を引き起こすことになる、核惨事は継続しているのだ。

私たちは2020オリンピックに向けて国際キャンペーンを企画している。私たちの関心事は、オリンピックのアスリートと訪問者が、その地域の放射能汚染により健康上の悪影響を受けるかもしれないということである。放射能感受性の強い子供や妊婦には、特段の関心を寄せねばならない。

日本政府の公的な見積もりによっても、オリンピックには120億ユーロもの巨費が掛かる、一方で日本政府よ、汚染地域に帰還したくない全ての避難者への支援打ち切りの脅しを掛けている。
核事故に起因する追加被曝の一般人に対する許容限度の国際基準は、年間1ミリ・シーベルトである。

避難命令が解除された地域では、帰還する住民は年間20ミリ・シーベルトに晒される。膨大な除染作業が行われた場所でさえ、山岳や森林地帯が放射性微粒子の継続的な貯蔵庫として働くので、好ましくない気候条件によっては何時でも再汚染されることになる。

私たちのキャンペーンは、核産業の危険性について一般民衆を啓蒙することに照準を合わせる。日本の民衆がどのような健康障害に晒され続けているかを明らかにする。通常運転中の原発でも、一般民とりわけ幼児と胎児に対して重大な脅威を与えている。

核産業の有毒な遺産のための安全かつ恒久的な保管場所は、この地球上の何処にも存在しない。これこそが真実なのだ。

私たちは、原発の段階的廃止を呼び掛ける日本の仲間の取り組みを支持し、化石燃料と核燃料から離脱し、再生可能エネルギーに向けた世界的エネルギー革命を促進するため、オリンピックのために創設されるメディアを活用するであろう。

私たちは、世界中の軍事産業複合体の政治的代表者に、本件に関与することへの関心を高めて行く。

私たちは、日本の汚染地域が平常状態に復帰したことを装おうとする日本政府の試みを強く弾劾する。

私たちは、世界の全ての組織に私たちのネットワークに加わり、このキャンペーンをまとめて行く運営グループを共に立ち上げて行くことを呼び掛ける。
オリンピックまでは2年であり、まだ組織化の時間はある。
ご返事をお待ちします。

“核脅威のない2020オリンピックを”キャンペーンに向けて:
   Annette Bansch-Richter-Hansen
   Jorg Schmid
   Henrik Paulitz
   Alex Rosen

 

被曝・診療 月報 第30号  何故、県・県立医大は、検査結果を正確に 調べないのか?

この号の内容

1 甲状腺検査を正確に行わない福島県・県立医大批判
2 8・5~6ヒロシマ国際反戦共同行動に参加して
3 第32回福島県民調査検討委員会傍聴記
4 松江寛人先生の偲乙会が盛大に行われる
5 被曝・診療月報のバックナンバー紹介

何故、県・県立医大は、検査結果を正確に調べないのか?

一安倍の“復興オリンピックを手助け!!

ふくしま共同診療所院長 布施幸彦

9月5日に、福島県県民健康調査検討委員会(以下検討委員会)が行われた。小児の甲状腺検査は2011年度に1巡目が始まり、2017年度までで3巡目が終了しているが、今回の検討委員会で3巡目の最終結果が報告された。まず今回の検討委員会で発表された3巡目の検査結果を見てみよう。

〇3巡目の検査結果

対象者336、669入の内、受診者217、506入(64.6%)。異常なしのA判定2↓5、990入(99.3%)、異常ありのB判定1、482入(0.7%)、癌疑いのC判定O入。二次検査の対象者はB判定以上なのでユ、482入だが、913入(61.6%)が二次検査を受け、結果確定者826入(90.5%)で、再度B判定と確定した者は740入(89.6%)。その中で悪性が疑われて穿刺細胞診を受けた者は45入(6j%)。穿刺細胞診の結果、悪性ないし疑いが15入(男6入、女5入、震災当時の年齢6~16歳)見つかり、11人が手術し癌と確定した。

次に1~3巡目の検査結果で分かったことを見ていこう
○受診率
1巡目81.7%(年齢階級別受診率0~5歳85.7%、5~10歳95.8%、11~15歳83.1%、16~18歳52.7%)、
2巡目71.0%(2~7歳78.9%、8~12歳93.3%、13~17歳86.9%、18~22歳25.7%)、
3巡目64.6%(7歳以下74.0%、8~12歳90.2%、 13~17歳82.2%、18歳以上16.4%)。

受診率の推移で分かることは、検査毎に約1割低下しており、その中でも特に高年齢者の受診率の低下が著しい。高校を卒業した子供たちは16.4%しか受診していない。逆に言えば学校検診が行われている世代は、8割以上が検査を受け続けている。18歳以上の受診率を上げることも大事だが、学校検診の継続が鍵なのだ。だから検討委員会や甲状腺評価部会(以下、評価部会)で甲状腺検査を自主検査にして実質上縮小するために、高野徹委員らは学校検診の中止を声高に主張した。それに対してふくしま共同診療所も含めて多くの県民が県当局に「学校検診の継続」を要求したため、6月18日の検討委員会と7月8日の評価部会では「学校検診の継続」を主張する委員の発言が相次いだ。

○学校健診をめぐる論議

検討委員会では春日文子委員が「県の事業として始めた検査であり、結果も情報も県民のものだ。分かりやすく、なるべく早く県民に知らせるべき」と発言。
評価部会では、高野徹委員らが「超音波検査が健康上の利益を受けられるという証拠はなく、白覚症状のない甲状腺がんを早期発見しても予後の改善が期待できない」「若年者のうちからがん患者とみなされることにより社会的・経済的不利益が生じる」と甲状腺検査デメリット論を展開したのに対して、吉田明委員(神奈川県予防医学協会)は、甲状腺専門病院である野口病院142例(1961~2005年)、隅病院110例(1987~2007年)、伊藤病院227例(1979~2012年)の若年者甲状腺がんの多数例を紹介し「頭部リンパ節転移のあるもの、腫瘍径の大きいもの、16歳未満のもの、被膜外浸潤のあるものは、再発の危険因子となり、予後が良いとは言い切れない。微小がんといえども気管や反回神経への浸潤が懸念されるものは、細胞診を行い、手術すべき」「超音波検査は早期発見に有効」であると反論している。
複数の委員も学校検診の継続を強く求めるようになったため、学校検診を早急に中止することは出来なくなった。そのため検討委員会は、甲状腺超音波検査の「同意書」を改悪して本人や保護者に学校検診を拒否させるような方向に転換したようだ。拒否者が多くなれば、PTAが学校検診の中止を要求するということも起こりえる。そして実質的に学校検診を崩壊させるというシナリオだ。
学校検診にデメリットかおるという議論こそおかしい。彼らが主張している「過剰診断」のことだが、甲状腺倹査をすることは過剰診断でもなく、デメリットも全くない。甲状腺検査で癌を見つけることと、その癌をどのように治療するかは全く別な問題。治療方法について医学的に議論をすることは重要だとは思うが、検査をしないで癌を放置するという選択は間違っている。

○穿刺細胞診

穿刺細胞診の割合だが、1~3巡目までのB判定の割合は0.7~0.8%と変わっていないにも関わらず、細胞診は1巡回27.4%(574人)、2巡目11.3%(207人)、3巡目5.4%(45人)と検査毎に低下している。
細胞診の割合の減少について県立医大は「細胞診の適否は対象者(保護者)の希望を踏まえて判断しているが、検査初年度の平成23年度は不安が最も高く細胞診を希望する方が多かったこと、2巡目以降の検査で細胞診の適応と判断された場合でも1巡回の検査において細胞診の結果が出ており超音波検査所見で変化が見られない場合は細胞診を行わないことなどの影響が考えられる」と説明した。しかし検討委員会で清水一雄委員は「穿刺細胞診の割合がかなり減っており、25歳の節目検査ではB判定31人に対して1人も実施していない」と指摘している。二次検査の時点で細胞診をせずに経過観察中に細胞診を行って癌と診断しても集計数に反映されない。経過観察者は2700人以上で、意図的に細胞診を経過観察後に引き伸ばしていると可能性が高い。

○悪性ないし疑い及び手術の件数

1~3巡目までを合わせると悪性ないし疑いが202名(男79人、女123人)、手術した者165人(癌164、良性1人)となる。その上で、7月8日に行われた評価部会で、この集計に漏れた子供たちが11人いることが発表されている。それを含めると213人が悪性ないし疑いで175人が癌と確定した。
この数が正確かというと実はもっと多いことも分かっている。県立医大以外の医療機関で実施された手術数が2015年に7例あったが、それ以降も7例のまま増えていないことである。県立医大以外の手術数が変わっていないことについて、県立医大は「倫理上把握は不可能」「今後も他施設での甲状腺がんの把握は行わない」と返答した。
つまり実際はもっと多いことを県立医大も認めたということだ。これに対して環境省の梅田珠実環境保健部長は「甲状腺がんの把握について全体性がなかなか見えない」「他施設の手術症例については、難しいので集めないというのは初めて聞いた」「であれば、出来ないではなくて、全体性を把握するにはどうしたらいいのか、いろいろ工夫していただきたい」と苦言を呈した。
がん登録やDPC(診療群分類包括評価)を行っている大きな病院は甲状腺癌を含め、すべてのデータが県や国に報告されている。そのデータを使えば小児甲状腺がんの数の把握はもう少し正確になる。それさえ県立医大はする気がない。いや意図的に数を隠そうとしている可能性が高い。甲状腺検査、特に学校検診を続ければ続ける程、小児甲状腺がんば増え続ける。
そうなれば何時までも「小児甲状腺がんば放射能の影響ではない」と主張しにくくなり、東京オリンピック誘致の際の安倍首相の「健康問題については、今までも現在も将来も全く問題ない」という発言がウソであることが国際的に認知され、2年後に行われようとして東京オリンピックは破産してしまう。改めて言うが、すべての鍵は学校検診の継続にある。学校検診を維持するために、県・県立医大・検討委員会・評価部会を監視し続けよう。

最後にベラルーシ共和国の甲状腺学の第一人者であるユーリ・デミチク医師の言葉を引用しよう。

『子供の甲状腺がんはリンパ節転移する確率が高いのが特徴。ベラルーシ共
和国で手術せず様子をみた例と、手術をした例とでは、子供の寿命は格段に
違った。手術すれば、ほとんどの場合、高齢者になるまで健康に生きることが出来る」「見つけなくていいがんを見つけた、なんて言ってはいけない。見つけたがんは必ず手術した方がいい。数年経過を見たこともある。すると、次にする手術は大きい手術になった」「だから、見つけたがんは直ぐに手術した方がいい。それが30年間チェリノブイリで甲状腺がんと闘ってきた自分の考えだ」

          まとめ

〇3巡目の検査結果
対象者336,669人、受診者217、506人(64.6%)。
A判定215,990人(99.3%)、B判定1,482人(0.7%)、C判定0人
二次検査
対象者1、482人、受診者913人(61.6%)
結果確定者826人(90.5%)再度B判定740人(89.6%)
穿刺細胞診45人(6.1%)
悪性ないし疑いが15人
(男6人、女5人、震災当時の年齢6~16歳)
11人手術(癌と確定)

〇1~3巡目の検査結果のまとめ

★受信率
1巡目81.7%(年齢階級別受診率0~5歳85.7%、5~10歳5.8%、11~15歳83.1%、16~18歳52.7%)
2巡目71.0%(2~7歳78.9%、8~12歳93.3%、13~17歳86.9%、18~22歳25.7%)
3巡目64.6%(7歳以下74.0%、8~12歳90.2%、13~17歳82.2%、18歳以上16.4%)。

★穿刺細胞診
1巡目27.4%(574人)、2巡回11.3%(207人)、3巡目5.4%(45人)

★悪性ないし疑い及び手術の件数
1巡目 116人(102人手術-1人良性)
2巡目 71人(52人手術)
3巡目 15人(11人手術)
合計 202人(165人手術-1人良性)

被曝・診療 月報 第29号 医学的根拠のない『福島安全論』

この号の内容

1 医学的根拠のない『福島安全論』を批判する
2 反核運動と「原子力の平和利用」論は両立しない

3 福島の現状を知り柏崎を考える
4 福島の現状一国道6号線線量測定②
5 第31回福島県民調査検討委員会傍聴記

 

医学的根拠のない『福島安全論』

一福島県保険医協会・松本純理事長を批判するー

     本町クリニック院長 杉井吉彦

広島・長崎への原爆投下から73年が経過します。2011年3月に引き起こされた東電福島第一原発事故からも7年半となりました「避難・保養・医療」の原則を掲げて、ふくしま共同診療所での医療を続ける中で、「被曝に対する医療」のあり方について得るものは大きなものでした。それは、原爆と原発とは本質的には同じものであり、したがって、「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・チェルノブイリ・フクシマを、決して繰り返すな」という考え方になってきました。肥田舜太郎医師も「広島・長崎・福島jという考えを生前述べておられました。
この考え方と全く反対に、「広島・長崎と福島は別」と考え、「福島は安全」と根拠なしに主張するのが、福島県保険医協会理事長で生協いいの診療所所長の松本純医師です。彼は『全国保険医新聞』の5月15日号に「福島からの報告」として、編集部からの要請で「寄稿」を寄せています。

 「福島は安全だ」と強要する

もっとも特徴的なのば「先生どっち派ですか」と批判されたのを、全く痛みとして感じてなく県民の思い・考えを踏みにじっていることです。「福島県民の放射線障害に対する不安は続き‥‥福島県を去る人々が相次ぎ‥‥当時は住民の要望もあって放射線学習合が開かれました。安全を強調するための学習会で、危険を警鐘する学者・研究者の両極論が飛びかった‥‥私も依頼されて講演しました。私か『絶対的に危険か安全かではなく、いずれもそれなりの対策が必要です』と説明しても参加者は納得されず」となり、前述の『どっち派ですか』という批判を受け、それに対して「と問うてくるせっばつまった状況でした」としか書かれていません。健康被害・医療に対して『いずれそれなりの対策が必要』と答える態度は、福島は安全と全く一方的に思い込んでいるからこそ、出てくる言葉なのであり、県民の『患者』の思いを踏みにじる医療者として絶対にやってはならない行為(医療)と考えます。
根底に『福島安全、したがって健康被害など起こらない』と考えているために、小児甲状腺がん多発に関しても、「現在無症状で発見されている甲状腺がんの多くは乳頭がんであり‥‥遺伝子型が、BRAFタイプが多いことから、放射線起因性は今のところ否定的と思われます」と、何の医学的な根拠も参照も明らかにすることなく『今のところ』と限定しながら、科学的装いすら加えることもなく、全否定している。「しかし放射線との関係を解明するためには今後とも長期に検査を継続する必要があり、福島県民の理解を得ることが大切です」と語っている。

検査の縮小を後押しする

『福島県民の理解を得ることが大切』とは何か。調査検討委員会が検査の縮小・廃止に向かって攻勢をかけている現段階で『理解を得ること』とは、検査の縮小を後押しして、県民に対する「理解=強制」の先導者になろうと表明しているのです。「いいの診療所でも全日本民医連からの支援を受けて」(保険医新聞は保険医協会の機関紙で民医連は別にもかかわらず)「甲状腺エコー検診を行いました」と言っているが、確認された限りでは、県民の切望に押されてほんの少数の検査実施を「大げさに」書いているのです。かつて松本医師は『健康被害を大げさに言う人々』がいると保険医協会の総会で発言した経緯がありました。ふくしま共同診療所と彼のいずれが正しいか、いずれが県民の要望にこたえているのかは明らかだと思っています。
このような『寄稿』を要請した、保険医新聞の編集局の方針はあまりにも公正さを欠いています。責任は重大です。

【付記‥お詫びと訂正‥『月報』第28号の『松江先生の追悼文』の中で「医学連」=「全日本医学部学生自治会連合」としましたが、「医学連」の正式名称は「全国医学生連合」が正しく、お詫びして訂正します。複数のご購読者から指摘を受けました。もちろん全国医学生連合が60年安保闘争では圧倒的多数派であり、その委員長としての戦闘性は、晩年に至るまで保持し続けられたことは言うまでもありません。福島の記者会見で「山下なんかはギロチンだ」と言ったのを鮮明に記憶しています】

被曝・診療 月報 第28号 松江寛人名誉院長への追悼文 「貴方が築いた診療所を守り抜きます」  

 

この号の内容

1 帰還強制に抗う福島県民と連帯を
2 松江寛人名誉院長の追悼文
3 隷従の「科学」一学術会議声明に接して思う②
 琉球大学名誉教授 矢ヶ崎克馬
4 第30回福島県民調査検討委員会傍聴記
ふくしま共同診療所事務局長 須田義一郎
5 福島とハンフォード中間施設、イノベーションコースト構想から見る福島浜通の現状② 岡山 浩

松江寛人名誉院長への追悼文

貴方が築いた診療所を守り抜きます

本町クリニック院長 杉井吉彦

ふくしま共同診療町の初代医院長を務められた、松江寛人名誉院長が、3.11東日本大言災・福島第一原発事故からまさに7年の、3月11日逝去されました。
昨年3月10日脳出血を発症し、11日深夜に開頭血腫除去術を行い、1年問の壮絶な闘病を経てでした。享年81歳。
松江先生は、千葉大学在学中の1960年、安保闘争の真っ只中に、全国の医学部自治会の組織「医学連」(全日本医学部学生自治会連合)の委員長として、最先頭で闘われました、卒業後「国立がんセンター病院」で38年間勤務。放射線診療部長として、日本の放射線診断学、特に、日本における「超音波検査」の先駆者・指導者としてゆるぎない権威を確立してきました。また米国タフツ大学放射線科客員教授としての活躍も医師としての経歴としてすばらしいものでした。
2001年に「国立がんセンター」退官後は、銀座・杉並に「がん総合相談センター」を開設し、がん患者・家族に心から寄り添い、診察・相談を全力で取り組まれました。
2011年の秋、福島第一原発事故で放出された、放射線による健康被害から県民を守るためには、独自の医療機関が必要だと、「福島診療所建設委員会」が設立されました。そのとき松江先生が、「私は、放射線科の医者ですが、放射線科医は、危険を感じてまで、仕事をやっています。本来はあってはならないものです。しかも、われわれは医療のために放射線を使っていますが、そうではなくて、別の目的で使っていることは、本来に許しがたい」「放射線というものはそもそも私に言わせれば、ゼロ以外ぱ危険です」(2015年3月 「第1回 被曝・医療 福島シンポジウム開催挨拶」と断言し、初代院長を引き受けられました。「それに賛同したわれわれ医者が『じゃあ、無給であろうと無報酬であろうと、とにかくやりましょう』ということで始まったのです」(同上)。当時すでに70代後半だった松江先生の決断が、私を含め医師グループの決意をうながし、まさに先生の指導なしには開設・運営はなかったといえます。
そして2014年11月に布施先生が新たに院長を引き受け、名誉院長になられてからも、常に、診療の中心でありました。 2017年の3月12日の『第2回被曝・医療福島シンポジウム』の実行委員長として呼びかけ、開催の前日に倒れるまで、叱咤激励を、診療所のすべての関係者に送り続けられました。
開設後は、甲状腺超音波検査を駆使し、診療、指導に本当に真摯な、厳しい態度で臨まれました。『小児甲状腺がんば放射線の影響でない』と主張する、県当局・福島医大・調査検討委員会に徹底的に対決(戦闘性は常に我々のレベルを超えていました)してこられました。この精神を私たちは必ず受け継がねばなりません。
松江先生、本当にありがとうございました。
そして私たちは誓います。「広島には、肥田舜太郎先生、福島には松江寛人先生」この二人の、放射能による健康被害に苦しんでいる人々に、心の底から寄り添い、診療を続けられた精神を、必ず引き継いでいきます。みんなとともに確認した『ふくしま共同診療所』の医療方針・・『避難・保養・医療の原則』を実践していきます。
松江寛人先生、安らかにお眠りください。
合掌。

帰還強制に抗う福島県民と連帯を

帰還強制に抗う福島県民と連帯を3。11反原発福島行動での挨拶から

ふくしま共同診療所院長 布施幸彦

ふくしま共同診療所は開設してから5年間、診療を含め様々な活動をおこなって来ました。これも全国・全世界の皆様の様々な御支援のお陰です。最初に感謝申し上げます。本当に有難うございました。その上で、今後も活動を続けられるよう更なる御支援をお願い申し上げます。
診療所が取り組んでいる「被曝と帰還強制反対署名」への御協力にも感謝申し上げます。署名は現在48、520筆集まっています。私たちは県にこの署名を提出し、今までに5回、県当局と交渉してきました。県の回答は「ゼロ回答」ですが、今後も署名を集めて、粘り強く県当局と交渉を行い、県に圧力をかけていく所存です。そのために、今後も署名の御協力お願いします。

甲状腺エコー検査の拡充こそ、福島県民の要求

今、福島県では小児甲状腺検査を縮小しようとする動きが強まっています。福島県県民健康調査検討委員会、甲状腺検査評価部会、福島県立医科大学が公然と甲状腺検査を縮小し、自主検査にしようとしています。1月26日の甲状腺検査評価部会で、高野徹委員は「学校検診という形で、‥・強制力を持って検査が行われている‥・。これは子供の人権問題」と、甲状腺エコー検査が子供の人権を踏みにじる行為だと断じ、中止するように提言しています。現在小児甲状腺がんないし疑いが197人、手術して甲状腺がんと確定した子供が160人と公表されています。しかしそれ以外にも9名が手術を行っており、今までに200名を超える甲状腺がんないし疑いが発生しています。
県民健康調査検討委員会は1巡目の検査で甲状腺がんないし疑いが116人発見された時には、「放射能により甲状腺がんが発生するには5~10年かかる」と主張していました。彼らの主張でもこれから甲状腺がんが増えていくことになります。それなのに彼らは甲状腺検査を自主検査にしようとしているのです。

この動きに対して、福島の住民は「甲状腺検査を維持」するように県当局に申し入れを行っています。福島県民の声は「甲状腺検査をこのまま続けろ」です。木目の集会には参加されていませんが、昨年私と韓国の国会議員会館で発言した大人の甲状腺がん患者の大越さんは、『週刊金曜日』の3月9日号で「『福島県民健康調査』のおかしさ、差別、そして子供たちの未来」と題して大人の甲状腺がんについて発言しています。大人の甲状腺がんも増えているのです。診療所も「甲状腺検査を維持し、更に大人にも拡充」するために、県内各地で大人も含めた無料甲状腺エコー検査と講演会を行っています。木日も午前中にこの会館の隣の公民館で甲状腺エコー検査を行ってきました。 11人が参加して下さいました。
2月には郡山市と自主避難者を対象に長野県松本市でも行いました。私たちはこれからも、甲状腺検査を維持・拡充させるために、県内外で、講演会と無料甲状腺エコー検査を行っていきます。

高汚染地区へは帰らない

避難指示が解除された町に帰った住民は、浪江町2%、富岡町2%、飯館村7%、南相馬市小高区19%、楢葉町26%だけです。浪江町の世帯数は6、950ですが、その内、約3、000軒が更地になります。理由は、家があると固定資産税が発生するからです。
2018年から50%、2021年から100%。そのために家を解体しているのです。建物がなくなれば固定資産税は安くなります。帰る気がないから、解体して、ているのす。避難指示が解除されても多くの住民は、高汚染地区に帰らない闘いをしているのです。

子どもを人質にする帰還強制を許さない

飯舘村や川俣町山木屋地区では、今年度から「小中一貫教育」と称して、学校を元の場所で再開させます。「小中一貫教育」と言っても特別な教育はなく、生徒数が少なくなったので一貫校にしただけです。震災前には、山木屋地区では生徒数が減ってしまったので廃校にし川俣の小中学校に統合させる計画が出ていましたが、原発事故があったので元の場所で再開したのです。川俣町の教育長は「地域に学校がなくなると地域が発展しないから学校を再開する」と述べています。学校を再開することで、子供を人質にとって、強制的に住民を帰還させようとしているのです。私たちは「被曝と帰還の強制反対署名」を県内の小中学校を中心に行っています。県教組のある支部が署名に取り組むことを決定しました。現場の教職員が学校再開に反対すれば、学校再開を止めることが出来ます。

「自主避難者」は立ち上かっています

県外の「自主避難者」への住宅補助は昨年3月で切られました。しかし彼らの闘いも始まっています。米沢市の雇用促進住宅に「自主避難」した8世帯に対する住宅明け渡し要求訴訟が山形地裁で行なわれています。国により被告とされた武田徹さんは「住宅補助が打ち切られ生活は苦しいが、福島の土壌は汚染されたままで子どもの内部被ばくが心配で帰れない。地域のつながりも奪われた」と陳述し、記者会見と報告会では「私たちが闘っている相手は国家権力。だからなかなか声を上げられない。私はみんなの声を代弁していると思っている」「避難者の個々の事情を無視して、一方的に補助を打ち切る、そんなやり方はまちがっている。正していきたい」と、人生を賭けて闘うことを宣言しています。武田さんをはじめ、多くの「自主避難者」が人生を賭けて裁判闘争を闘っています。彼らを支援し共に闘って行くことが必要だと思います。
東京オリンピックを口実とした国や県による甲状腺検査の縮小・被曝と帰還の強制が強まっています。しかし福島県民の闘いも陸続と始まっています。彼らと共に生き、共に闘って行きましょう。本日をその第一歩としましょう。診療所は、福島県民と共に、全国・全世界の仲間と共に闘って行くことを誓って、集会の挨拶とします。御静聴有難うございました。

 

被曝・診療 月報 第27号 超音波健診の拡充で県民の健康を守ろう

この号の内容
1 隷従の「科学」―学術会議声明に接して思う
琉球大学名誉教授 矢ヶ崎克馬
2 避難者の健康を守るために
避難者の健康を守る会 森永敦子
3 院内集会「多発する子どもの甲状腺がん―福島県民健康調査はこのままで良いのか―」に参加して
本町クリニック事務長 鈴木健一
4 福島とハンフォード 中間貯蔵施設、イノベーションコースト構想から見る福島浜通りの現状超音波健診の拡充で県民の健康を守ろう ――岡山 浩

 

本町クリニック院長 杉井吉彦

3・11東日本大震災・福島第一原発事故から7年、ふくしま共同診療所開設から5年が経過しました。
福島県からの県外避難者は依然として復興庁の2月末の発表ですら3万4千人(自主避難者はカウントされなくなっている)にのぼる。うち1万3千人は「親族・知人宅等」に分類されています。
昨年10月で市町村が「把握している」18才未満の子供の避難者は、県内8千人、県外1万人である。この年齢層の全員に行うはずであった甲状腺検査は、実施者の怠慢と、意識的な「段階的縮小」方針によって、3巡目の検査の実施率は60%以下になっている。18才を超えている県民に対する甲状腺検査は20%前後である。早期発見・治療の原則が危うくなるような水準になっている。すでに、統計学的な評価が困難になってきており、実質的な『縮小状態』といわざるを得ません。
法律的な、耐用の2年をはるかに超えた「避難住宅」になお5千人以上が住まわされています。「震災関連死」は2200人を超えて年2~300人で増加し続けています。これが福島の現実です。

小児甲状腺がんは増えている、健診の縮小はすべきでない

小児甲状腺癌問題は、ますます深刻度を加えています。3月5日の第30回県民健康調査検討委員会の発表でも新たな腫瘍発生が報告されています。検討委員会の発表以外でも何人も癌患者がいることがわかっていて、健診から「保険扱い」になった後で発生したケースも全く発表されていません。
さらに、1月26日開催の第9回『甲状腺検査評価部会』の公式報告では、「甲状腺検査にはデメリットがあり、全くなくすというのは難しいのではないか。いかにして検査による不利益を少なくするかを考える必要がある」などとの発言が「報告」されている。健診を、縮小・廃止の方向に大きく舵をきっていることは、明らかです。
「安全・安心・帰還・復興」の大方針の下、安全性に全く根拠のない20㍉シーベルト基準での避難指示解除・帰還強制は、「住宅空け渡し裁判」という法的な強制力で進行している。その理不尽な方針に対して、多くの県民が帰還を拒否している。昨年4月に解除された3万1千人に対して2月末の段階で1800人、人数が最大の浪江町での帰還率は3.2㌫に過ぎません。多くの県民が「健康と命」の問題を、生活と人生をかけて拒否し続けています。

「避難・保養・医療」の原則で、県民の健康と命を守ろう

現在、問われている最大の争点は、この「健康と命」問題です。原発による放射線障害が存在するのか、現在も進行しているのか、将来はどうなのか、この問題をめぐって激しい分岐が起こっています。私たちは、甲状腺癌の多発を認め、これが放射線障害によるものとして認め、強靭な対策を立てるべきとの立場です。将来の健康被害は起こるという立場です。長期にわたり福島県民と多くの人々の健康を守り抜く立場です。このことを認めようとせず、放射能は「安全だ。危険というのは『差別』」という人々は、許すことができません。
だからこそ「避難・保養・医療」の原則が、今こそ福島の地で必要とされていると思っています。避難を続けている人々を支援し、健康を守りぬかねばなりません。保養をもっと大きく広く拡大していかねばなりません。常磐線の延伸に伴う、多くの労働者に対する被曝労働強制を許してはなりません。
「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・チェルノブイリ・フクシマ」を繰り返してはなりません。原爆・核武装・原発・再稼動は一連のものであり、人類と共存できるものではありません。この5年間のふくしま共同診療所の経験が、これを実感・得心するものでした。

被曝・診療 月報 第26号 県民の被曝障害を顧みず、「復興」をゴリ押しする福島県のゼロ回答は許せません

この号の内容
1 全国保険医新聞寄稿
「小児甲状腺癌とは」批判③
2 菅間博論文批判②

3 28回県民健康調査検討委員会傍聴記
4 健康相談in博多
5 原子力機構の放射線被曝事故から学び、
東海第二原発再稼働阻止、直ちに廃炉に

6 ふくしま共同診療所が県外初超音波検診

 

県民の被曝障害を顧みず、「復興」をゴリ押しする福島県のゼロ回答は許せません

 ふくしま共同診療所院長 布施幸彦

県民に対する放射線防御対策はなし

福島第一原発事故から今年で7年が経過します。この間の福島県の県民への対応は不誠実としか言いようがありません。新潟県が「福島原発事故の検証なしに柏崎刈羽原発再稼働の判断はできない」という立場をとる中、当事者である福島県は、原発再稼働まっしぐらの政府と一体で復興施策に力を入れるのみで、主体的に原発事故の検証をしているとは到底思えません。
広島・長崎・チェリノブイリの経験からも被曝の影響が、長期にわたることは明らかです。原発事故後、年間の放射線被曝限度が他県の20倍に引き上げられ、そのことがいつの間にか安全基準とすり替えられ、県民に必要な放射線防護対策がまったく取られなくなりました。
しかし小児甲状腺がんまたは疑いの子どもたちは、県の公式発表だけでも194人となり、2000人を超える子どもたちが経過観察とされています。
福島県の対応は危機感が感じられないばかりか、問題意識すらないと疑わざるを得ません。原発事故後、県民の健康を長期に見守るとして始まった県民健康調査検討委員会も「放射能の影響ではない」という立場を明確にしています。
こうしたなか、多くの県民が自力で東京電力、国を相手に裁判を起こす状況となっています。

署名提出への福島県の不誠実な態度

ふくしま共同診療所が中心となって、2016年11月から「被曝と帰還強制反対署名」を行っていますが、2018年1月5日現在で、全国から4万6257筆の署名が集まりました。
私たちは集まった署名をその都度福島県に提出し、昨年夏までに県当局と4回にわたって交渉してきました。しかし県当局の回答はゼロ回答でしたので、2017年11月16日の5回目の提出行動では、私たちの質問を整理して文書化し、事前に県に送りました。
しかし県当局は文書での回答は拒否して口頭での回答となり、やはりゼロ回答でした。この質問事項は、私たちの「被曝と帰還強制反対署名」の要求4項目のキモとなっている福島原発事故の問題点をまとめ上げたものです。
提出された質問書からいくつかの質問を抜粋して、以下に掲載します。
署名を集める際の参考にして頂ければ幸いです。


【県民健康調査検討委員会について】

①県民健康調査検討委員会の委員の構成についてお尋ねします。今期の委員に大阪大学の高野徹氏が新たに選ばれました。高野氏は「小児甲状腺がんの多発は、過剰診断による」と断言しています。また多くの委員は明らかに「放射能の影響を否定している」方です。このような偏った委員構成では、「放射能の影響かどうか」を公正に検討することにはなりません。福島県として公平性をどのように担保していくのか、ご説明をお願いします。
②(略)
③委員の中から「県民からも委員を選出すべき」との発言がありましたが実現されていません。
県民が委員会に関わる必要性についてどのような認識をお持ちなのか、ご説明をお願いします。
④県民健康調査検討委員会では、(中略)当事者である県民・傍聴者にも質疑、意見など発言をする権利があると思います。県民の意見を会議にどのように反映させるつもりなのか、ご説明をお願いします。
⑤(略)【甲状腺エコー検査について】
⑥(中略)小児甲状腺がん及び疑いが194人に上る中、原因も追究せずに放射能の影響だけを否定するやり方では、県民の納得は得られません。検査結果を受けとめ、子どもたち本人のためとして真摯に受診を呼びかけること、指定病院を増やすことが必要であると考えます。福島県の見解をお伺いします。
⑦(中略)原発事故当時に福島県に往往していれば、県外に住民票を移した人も甲状腺検査を受けられるようにすべきだと思います。福島県の見解をお伺いします。
⑧(中略)福島県は、事故前と比べると大人の甲状腺がんが多発していると考えられます。状況と対策について県のご説明をお願いします。
⑨検討委員会の座長を務めていた長崎大学の山下俊一氏が、甲状腺エコー検査を縮小するように福島県知事に申し入れています。検査縮小に対する福島県としての見解をお伺いします。

【避難区域解除について】

⑩(中略)政府や東京電力は「原発は安全だ、事故は絶対に起きない」と言って福島第一原発を稼働させました。しかし2011年に原発は爆発し放射能が福島県と東日本、そして太平洋の広範囲に撒き散らされました。そんな政府や東京電力の言っていることをまた信用して本当に事故もなく安全に「廃炉」に出来ると県は考えているのでしょうか。今年4月には原発周辺の多くの自治体が避難解除され、1割前後ではありますが住民が自宅に帰っています。もし再爆発したら県当局はこの住民を放射能から守ることが出来ますか。少なくとも原発周辺への帰還をただちにやめるべきだと思います。県の見解をお伺いします。
⑪(中略)子どもたちをこれ以上被曝させないためには、学校の再開をやめるべきだと思います。県としての見解をお伺いします。
⑫避難解除された地域では、自治体の職員と家族がそこに住むことを強要されています。(中略)県当局も高汚染地域に行きたくないという県職員と家族を職務命令で行かせるのでしょうか。本人の希望は考慮されるのでしょうか。県の見解をお伺いします。
⑬JR東日本は2020年3月までに常磐線を全面開通させようとしています。(中略)列車が第一原発周辺で脱線などの事故のために停車したら、乗客は線路内を歩いて隣の駅まで行かなければなりません。除染されているのは線路内だけであり、線路の周辺は全く除染されていない高汚染地域です。住民に責任を持つ県としても常磐線の全面開通に反対すべきと思います。県としての見解をお伺いします。

【避難者支援について】

⑭今年3月に国と福島県は、災害救助法に基づく住宅提供を終了しました。(中略)安全なとこるに住みたいという県民の権利は保障されるべきです。住居補助の再開に対する福島県の見解をお伺いします。
あらためて、以下の項目を要求します。

〈要求項目〉
1.被曝の影響を認め、甲状腺検査の全年齢への拡充および、検診・医療の充実をはかることを求めます。
2.法令で定める一般住民の年間1ミリジーベルトの被曝限度以下になるまで、賠償や支援を続け、帰還を強制しないことを求めます。
3.「自主避難者」への住宅補助などの保障の継続と拡大を求めます。
4.すべての原発事故被災者に、行政の責任において避難および保養を保障することを求めます。

被曝・診療 月報 第25号 被曝による健康被害を告発する!

今号の内容

①被曝による健康被害を告発する
②<特集1>全国保険医新聞寄稿批判「小児甲状腺癌とは」-2
③<特集3>菅間博論文批判
④福島の現状
⑤28回県民健康調査検討委員会傍聴記
⑥健康相談inいわき

 

 

被曝による健康被害を告発する!

ふくしま共同診療所院長 布施幸彦

<以下の報告は2017年11月4日に千葉市文化センター12階ホールに於いて開催された国際連帯集会で行われたものです。同集会は、韓国民主労総、ドイツ・ベルリン都市鉄道、米国西海岸港湾労働者とレーバ・|ビデオ代表:滞日労働者諸組織及び日本各地の労働・反原発・女性運動・農民運動の代表が出席しました。(編集部)


ふくしま共同診療所 布施幸彦院長

全世界から11.4労働者国際連帯集会に参加された皆様、ご苦労様です。私は、ふくしま共同診療所院長の布施幸彦(ふせさちひこ)です。2011年3月11日に起こった福島第一原発事故の地、福島県で診療を行っています。
福島原発事故は三つの原子炉のメルトダウンです。スリーマイル、チェルノブリを超える歴史上最大の原発事故です。今すぐ原発なくせ!は当該である日本の労働者人民の責務であると共に、全世界人民の共同の闘いです。

 最初に当院の設立経緯

原発事故後、日本政府と福島県行政と権威主義的医療界は「放射能の心配はいらない」という宣伝に躍起となり、今日に至っています。

そうした圧力のもとで、住民が放射能汚染による健康被害を心配し、医療機関にかかっても「放射能の心配はいらない」と診療を拒否する事態が全県各地で起こりました。福島では放射能による健康被害を相談できる医療機関が皆無に近かったのです。

そこで、放射能汚染による健康被害を心配する福島の住民と全国の医師有志で、「内部被曝・低線量被曝」は危険であるという医療機関を創ろうと、全国・全世界に募金を呼びかけたところ、日本の広範な人々が応じてくれました。

それだけでなく、韓国、ドイツ、アメリカなど全世界からのご協力もいただき、2012年12月1日に開院することができました。だから、当診療所は、全世界の労働者の国際連帯の結晶です。最初に全世界の労働者の皆さんに感謝申し上げます。

 「避難・保養・医療」という原則

福島は放射能汚染地域で全員が避難すべきです。だから第一には避難です。
しかし福島から避難できない多くの人がいます。その人たちは、放射能の影響のない地域にたとえ数日間でも保養に行った方が、放射能による健康被害を少なく出来ます。だから第二には保養です。
今でも多くの人々が放射能汚染地域で生活しています。こうした住民の健康を守るために診療所は医療を提供します。だから3番目に医療です。

今、福島で問題となっていること

①小児甲状腺がんの多発
甲状腺がんないし疑いが191人、手術で152人ががんと確定しました。国連科学委員会(UNSCEAR)、福島県、日本政府は「放射能の影響は考えにくい」と言っています。福島県では3000人に1人の割合で発生しています。チェルノブイリ原発事故と同じように放射能によるものとしか考えられません。
しかも現在、この小児甲状腺がんの健康調査を縮小解体しようとする政府の動きが公然と開始されました。それは放射能被害の国際的隠蔽であり、許すべからざる犯罪です。

 ②復興という名の被曝強制と棄民政策
日本政府は、いつ再爆発を起こしてもおかしくない福島第一原発周辺の年間20ミリシーベルトに及ぶ放射能汚染地域に住民を帰しています。県外へ避難した人たちの住宅手当全額補助は今年3月に切られました。
東京電力は来年3月には仮設の住民への精神的補償金をうち切ります。お金を絶ち、経済的困窮に追い込んで帰還させ、被曝させようとしています。
これは国による「復興」「帰還」という名の棄民政策です。診療所は、帰らない闘いをしている福島県民と共に闘っていきます。
その他にも、小児甲状腺がんだけでなく、様々な健康被害が起こっていること、放射能汚染水を海洋投棄していること、原発労働者や多くの労働者が被曝労働を強制されていること、放射能汚染物質を土盛りの「中間貯蔵施設」に永久保存しようとしていること、など多くの問題があります。

 開院後の5年間の活動を報告

1、甲状腺エコー検査
放射能による甲状腺がんが多発しているので、大人も含めて甲状腺エコー検査を延べ3,000人に行ってきました。
2、避難された住民の健康を守る活動
津波や放射能汚染のために仮設住宅に避難された住民を対象に、仮設住宅を訪問して健康相談を行ってきました。
3、原発労働者や除染労働者の健康を守ること
 原発労働者が原発事故収束のために働いています。また県内の放射能汚染を除去する作業を行っている多くの労働者がいます。彼らの仕事は被曝労働ですが、彼らの働きなしには福島での住民の生活は考えられません。彼らの健康を守って行くことも大事な診療所の仕事です。
4、全国で行っている講演会活動
 講演会活動は、全原発を廃炉にし、第二のフクシマを作らせないための重要な活動だと思っています。私たちは事故以来、全世界で反核を闘っている医師たちとの連携も行ってきました。また被曝医療シンポジウムを隔年に開催してきました。
2015年以来、韓国の反核医師の会が参加してくださっています。また核戦争防止国際医師会議(IPPNW)ドイツ支部から連帯のメッセージを頂きました。
今年1月18日には韓国の国会議員会館で行われた反核韓日国際シンポジウムでは私は招待され講演してきました。
5、県内外に住んでいる避難者への支援
 避難者を支援するために、福島県内だけでなく、全国で「被曝と帰還の強制反対署名」を行っています。今までに4万筆以上集めました。この署名運動は、福島からの反乱の狼煙(のろし)です。

何故、政府が、「福島原発事故はなかった」ことにしようとしているのか。
安倍政権は、戦争法、秘密保護法、共謀罪を制定し、また数々の疑獄を引き起こし国民の不信の声が爆発しました。それに対して衆議院解散と総選挙を強行しました。戦争を放棄した現憲法を改悪し、戦争が出来る軍事国家に日本を変えようとしています。現代の戦争は核戦争です。核兵器を持つには、原発(核技術)が必要です。だから、国は「福島原発事故はなかった」ことにする攻撃を行っているのです。
診療所は、今後も被曝による健康被害を告発し、事故の収束はこれからなんだ、全責任を国と東京電力は取れ、と声を上げて行きます。
診療所の闘いだけでは安倍は倒せません。日本にも民主労総のような労働組合が必要です。11・5全国労働者総決起集会は、闘う労働組合再生の出発点です。
韓国でパククネを打倒した民衆総蜂起にならって、福島の反乱(今すぐ原発をなくせ)で闘う労働組合を作り、東京オリンピックを返上し、憲法改悪・朝鮮戦争に向かう安倍を倒します。全世界の労働者の力で、地球から戦争と原発を無くしましょう。闘う労働組合の国際連帯の力で、私たち労働者の世界を作りましょう。

 

 

被曝・診療 月報 第24号  「全国保険医新聞」寄稿批判

この号の内容
1 全国保険医新聞寄稿批判
本町クリニック院長 杉井吉彦
2 菅間博論文批判
本町クリニック事務局長 鈴木健一
3 避難解除の小学校の現実
診療所建設委員会代表佐藤幸子
4 「核惨事」(渡辺瑞也著)に学ぶ
ふくしま共同診療所医師 深谷邦男
5 無料健康相談in鹿島
 初めての沖縄報告会
6 読後感想文「脱原発の哲学」を読んで
ふくしま共同診療所医師 湊 明

 

特集1『全国保険医新聞』2017年6月20号
『小児甲状腺癌とは』一寄稿批判
本町クリニック院長 杉井吉彦

はじめ

<福島県は検診受託先の県立医大放射線医学管理センター発行の「甲状腺通信」第6号(2016年8月発行)を通じて、本格検査第3回目にあたって対象者の全家族に検査同意確認書の提出を求め、不同意者には受診案内を送付(受診勧奨)しないことを通知しました。
県健康調査院討委員会のいまだ検討にさえ上げない段階で、小児甲状腺がんの事実上の検査縮小(希望者のみ検査)を先行させたのです。
その後の9月には[第5回国際専門家会議](笹川財団主催、IAEAと長滝、山下らが主導)において公然と全対象者の甲状腺検査の廃止(甲状腺検診は自主参加であるべき)が提言されました。
県民の激しい批判が巻き起こりました。さらに国内外の広範な批判も寄せられています。
だが県はその態度を変えようとしていません。安倍内閣と原子力資本利権者集団、追随集団(長滝、山下ら)の強引極まりない支配下に福島県が引き回されているからです。
こうした状況とあわせて以下の論文をお読みください。編集部>

______________

福島原発事故から6年半。『安全・安心・帰還・復興』の掛け声が吹き荒れる中、小児甲状腺がんの多発は誰の目にも明らかな事実として、そして『被ばくによる健康障害』であるとの確信が広がっています。
福島県知事宛の『被曝と帰還の強制反対署名』の『被曝の影響を認め、甲状腺検査の全年齢への拡充』等の項目に賛同する署名が、8月末で4万筆を超えつつあります。
こうした中、『福島県が小児甲状腺がん検診縮小に踏みきっていることに対して、医療関係者はどうなっているのか』『福島医大・医師会はひどすぎるが他はどうなのか』と、患者さんからの質問・疑問が寄せられます。とりわけ『保団連』『民医連』等、「民主的で、住民本位」と称する医療機関の動向についてです。それら諸団体が、この間、国・県、とりわけ県医師会・福島医大と一体となって、甲状腺がんとそれを取り巻く事態に対して、きわめて、非医学・非科学的な主張と行動を示してきているからです。
なかでも、今回の保団連機関紙『全国保険医新聞』の「寄稿」は、今までの誤った対応の集大成としてあると思います。
過去において明確な発言のなかった杏林大学菅間博病理学教授(日本甲状腺外科学会理事)を通して、山下俊一福島医大副学長の主張・立場に踏み切ったと思わざるを得ません。
ここで問題となった「保団連」「民医連」とはいかなる組織なのか。

「保団連」、「民医達」とは

全国保健医団体連合会(保団連)は、日本の各都道府県に設立されている「保険医協会」が加盟する全国組織です。 二大目的として「開業医の医療、経営を守ること」「社会保障としての国民医療を守ること」を掲げ、医科・歯科一体の組織・運動を行っています。
1969年、「全国保険医団体連絡会」から「全国保健医団体連合会」へ改組され、現在約10万人 (医科6.5万・組織率65%)の会員数の団体です。
又、日本共産党の影響が極めて強い(共産党の小池晃議員・医師が理事だった)全日本民主医療機関連合会(民医連)は、1953年設立の「無差別・平等の医療と福祉の実現をめざす」綱領を持つ国内最大規模の医療機関組織です(病院143、診療所515、介護老人保健施設50等)。
両者はほぼ一体の組織構成となっています。
後述する保団連の福島県連代表の松本純(生協いいの診療所長)は、今年1月の「民医連第7回被ばく医療セミナー」で「被ばく問題委員」として「子どもの甲状腺がんに関して民医連福島県連の被ばく事故対策委員会が昨年秋に確認したスタンスを紹介し…‥現段階で、『多発』と見ることも、原因を原発事故だと断定することにも違和感がある]と発言しています。「民医連」はこの驚くべき発言にまったくコメントもせずに配信しています。この主張はそのまま「寄稿」の主旨と完全に一致しています。

2面にわたる寄稿論文

さて、「寄稿。論文は、保団連機関紙の2面にわたって異常なボリュームで(このような特集自体が、筆者は20年以上購読していますが極めて異例です)福島小児甲状腺がん問題についての保団連としての立場を鮮明にさせたものと言わなければなりません。
この寄稿を掲載した主旨として編集局は「保団連は、福島原発事故直後から住民に寄り添い健康管理や険診・診療を継続してきた医療関係者を支援する立場から、被曝と健康影響をめぐる最新の知見や専門家の検証など動向を注視していくこととしている」と述べています。
これは驚くべき「正直な」記載です。保団連、なかでも福島保団連はこれまで、全く誤った対応を続ける福島医大を含む医療関係者を支援してきたのであって、被ばくによる健康障害に晒されている県民・避難者を支援してきたのではないからです。
保団連は、小児甲状腺癌問題に対して、一貫として「見守る」立場であり、2015年7月の大会では、松本純県代表の「今なお過度に不安をあおる発言もあり、甲状腺の検査体制を築き、長期に冷静に県民の健康を見守る必要がある」という発言を了承しています。
2016年3月の保団連第42回大会では、同じく松本医師は「これまで甲状腺がん及びその疑いとされた人数を臨床症状ありの発見率と比較すると大変多いことになる‥・多発か否かといった議論は慎重にとらえなければならない」と「過度に不安をあおる」ことを非難するなど、甲状腺がん多発の現実に不誠実な対応に終始しています、これに対じて保団連の飯田副会長は、「被曝に関するさまざまな問題との関連を検証するには時間がかかる」と松本発言を肯定し、県民の「健康への願い」を踏みにじっています。
2017年第3回代議員会では、福島の被曝問題に関して、「脱原発をすすめよう」「再生可能エネルギーヘ転換」という発言はあっても、福島の甲状腺がん・被ばく健康問題の発言・答弁はまったくなくなっています。
このような流れの中で、今回の寄稿論文が出たのです。これは「寄稿」に名を借りた、「保団連」の判断、考え方の主張にほかなりません。

論文は9つの項目からなっています

①「はじめに一福島の小児甲状腺癌をどう考えるか」では「現時点では、小児の甲状腺癌の発見頻度が相対的に高い事が統計学者により強調され」と県民健康調査検討委員会の中間報告でも認めている発見頻度の「絶対的」な増加を認めようとしていません。さらに「一面的な統計的解析から短絡的に結論すべきではなく‥・社会的コンセンサス形成が図られるべき」と主張しています。
「統計的解析から短絡的に」に対しては、寄稿者が、医療における統計学的解析の必要性を全く理解せず、現代医療の常識に反していると言わねばなりません。「一面的」と主張するなら、せめて他の統計学者の解析に加わるように述べるべきだし、さもなければ:社会的コンセンサス:の形成はもちろん、医療者内部でのコンセンサスの形成を放棄しているといわざるを得ません。「統計学者」とは岡山大学の津田教授を指していると思われますが、津田教授の論文発表以降、さまざまな反論はほぼ完璧に論破されています(詳細は、雑誌「科学」2017年7月号等)。
津田教授の「甲状腺癌増加・被曝由来の癌」は医学的に・統計学的にまったく正当と考えます。
更に「福島原発事故後の放射性ヨードの内部被曝線量はチェルノブイリに比べてかなり少ない」と主張しています。
一体チェルノブイリと福島の内部被曝をどこで誰が計測し(特に福島では、対策の遅れから初期線量の計測はごく少数しかできなかったことが既に明らかとなっている)検討・発表しているのでしょうか。
「少ないこと」と断定する根拠はあるのか。
この論点に関して、「寄稿」は参考文献の列挙がなされていません。論文として不正確で不誠実であり、医学論文としての呈をなしていません。病理学者が「一面的・短絡的」と統計学者を非難するのであれば、専門外の放射線医学的な根拠を示すべきである。
「福島では放射性ヨードの飛散量はチェルノブイリよりはるかに少なく」の主張も根拠がまったく示されていない。
「それでは、福島で小児の甲状腺癌が多数見つかっていること(「発見頻度が相対的に高い」と矛盾した表現だが)をどう考えるのか」
「みつかった小児の甲状腺癌にどう対処すべきなのか」について、

②「甲状腺癌の発症年齢は特殊か小児甲状腺癌とは」以降で更に根拠のない主張が繰り広げられています
②項目以降については、次号に連載>

 

 

 

 

被曝・診療 月報 第23号 「被曝と帰還の強制反対署名」を拡げよう

この号の内容

1、『被曝と帰還の強制反対署名』を広げよう
2、第26、27回県民健康調査検討委員会を傍聴して
3、肥田舜太郎先生を追悼します
4、原子力産業における2件の放射線被曝事故
5、福島の現状
6 3.12シンポジウム参加者の感想文

「被曝と帰還の強制反対署名」を拡げよう

  ふくしま共同診療所院長 布施幸彦

はじめに
昨年11月からふくしま共同診療所や動労福島などの諸団体で「被曝と帰還の強制反対署名」を行っています。
署名の提出先は福島県知事で、要求項目は以下の4項目です。
①被曝の影響を認め、甲状腺検査の全年齢への拡充および、検診・医療。充実を図ることを求めます。
②法令で定める一般住民の年間lmSvの被曝限度以下になるまで、賠償や支援を続け、帰還を強制しないことを求めます。
③「自主避難者」への住宅補助などの保障の継続と拡大を求めます。
④すべての原発事故被災者に、行政の責任において避難および保障を保証することを求めます。

これまでに全国で3万5千筆以上の署名が集り、それを福島県に提出し、県と4回直接交渉を重ねてきました。私たちが何故この署名を始めたか、そして何をしたいのかを述べたいと思います。

甲状腺線検査に関して
当診療所は、2012年より福島市で甲状腺エコー検査を行ってきました。福島県では事故後6年間で放射能汚染により小児甲状腺がんが191人と多発しています。福島県は子供たち全員を対象に甲状腺エコー検査を行ってきましたが、昨年から甲状腺エコー検査を自主検査に縮小し、いずれ中止しようと目論んでいます。
福島県立医大の緑川早苗準教授は学校での子供向けの出前授業で「がんが見つかったら嫌だと思う人は、甲状腺検査を受けない意思も尊重されます」と話しています。
昨年12月には県立医大副学長山下俊一氏らが、県知事に「甲状腺検査縮小」を求める提言書を提出しています。それだけでなく、発表されている小児甲状腺がんの数は実は嘘だということもわかりました。
小児甲状腺がん患者を支援している「3.11甲状腺がん子ども基金」は3月31
日に、「事故当時4歳の男児(現在10歳)に療養費を給付した」と発表しました。
この男児は、2014年の甲状腺検査で経過観察(保険診療)となり、2015年に穿刺細胞診で悪性と診断され、2016年前半に福島県立医大で甲状腺摘出手術を受けてがんと確定しています。
この症例に関して福島県県民健康センターは、「2月20日の発表には該当される方はいない。県民健康調査の二次検査で『悪性ないし悪性疑い』となった方のみを検討委員会で報告しているので、経過観察後にがんになった子供は報告していない」と回答し、県立医大も[保健診療移行後に見つかったがん患者は、センターでは把握していない]と述べ、データを公表しなかったことについて「県や検討委員会が決めたルールに従っているだけ」と釈明しました。
経過観察となった人は、1巡目(先行検査)1260人、2巡目(本格検査)1207人、3巡目56人で計2523人。この子らから経過観察中に甲状腺がんが見つかり手術しても、県民健康調査の資料には載らないことが明らかになりました。この件で判ったことは、
①。今まで発表されたがん総数191人は嘘で、実はもっと多いこと。
②二次検査でがんを疑っても、保険診療後に細胞診を行えば、資料には載らなくなる。つまり恣意的にがん患者数を調整出来ることです。

6月5日に行われた県民健康調査検討委員会では、環境省が音頭を取って、IAEAやICRPのメンバーが参加する放射能による健康被害を検討する第三者機関の設置が提案されました、彼らは嘘の小児甲状腺がん患者数を基に、「最初は多かったが、検査毎に減っているのだから、スクリーニング効果だ」と主張して、甲状腺エコー検査を縮小・中止しようとしています。

県内外の避難者への帰還の強制に関して

事故後十数万人が県内外へ避難しました。これまで福島県は「自主避難者」に対し住宅手当の補助を行い、避難先の自治体も県営住宅の提供などの便宜を図ってきました。
しかし、国が避難指示区域を次々に解除し、それを受け福島県は2017年3月で住宅補助の打ち切りを決めました。
それだけでなく、昨年から都道府県の自治体の職員と福島県の職員が県外避難者の自宅を回って「帰還するよう」に説得工作を行いました。
東京都の場合、都職員・区職員・福島県の県・市職員の4人が自宅まで訪問し、「住宅補助の打ち切りと都営住宅の便宜の中止」を通告し、「都営住宅に住みたければ、都に移住し、都営住宅に応募するよう」に話しています。県内の仮設住宅や借り上げ住宅に避難している避難者に対しても、「除染を行った」として年間50 mSv に及んだ高汚染地域の自宅に帰そうとしています。
今年3月31日、4月1日には居住制限区域まで解除され、約3万2000人が帰還の対象となりました。多くの人々は高汚染地区に帰ることを拒否し、このまま仮設住宅や借り上げ住宅に住みたいと思っています。しかし仮設住宅の期限は今年3月まで。このままでは彼らは高汚染地区に帰るしか道はありません。
避難指示の間は、固定資産税等の税金の免除が行われていました。しかし解除となれば、自宅へ帰ろうが帰るまいが固定資産税や光熱費等の徴収が始まります。
浪江町では、2018年から50%、2021年から100%の固定資産税が取られるため、約2000軒が更地になろうとしています。そして東電から出ている精神的賠償金も打ち切られます。
避難指示が解除された故郷に帰りたいという気持ちはよく分かります。 終の棲家として帰りたい人が帰ることはいたし方ないと思います。
しかし、子どもに放射能による健康被害を生じさせないために、困難な生活を覚悟し県内外へ避難した家族に、経済的困窮を強制することによって、放射能汚染の地へ帰そうとする政策は間違っています。彼らには避難する権利があります。
今までに避難指示が解除された地域の住民は1割も帰っていません。そこで楢葉町と南相馬市小高区では、4月から学校の再開を強行しました。楢葉町の町長は、楢葉町に帰ってこない町職員に対して「昇給と昇格はさせない」と宣言しました。また学校が再開されれば、教職員とその家族も高汚染地域に行かなければなりません。自治体職員とその家族も高汚染地区に帰らなければなりません。だから福島県では自治体職員の自殺者が増えているのです。
署名運動の目的に関して、私たちは単純に署名が集まれば、県が動くと思っているわけではありません。
全国で行われた「住宅補助打ち切り反対の署名」は、約20万筆集まりましたが、国や県は無視しました。
署名を集めるだけではダメなのです。署名を県に持って行き、県に圧力をかける。そういうことを繰り返し、署名運動を媒介にして県町村職員、教職員の人たちを立ち上がらせる署名です。
原発事故の一切の責任は国と東電にあります。国と東電に県内外の避難者の生活の保障、健康の保障をさせましょう。各都道府県で、県外の「自主避難者」とつながって、守る運動をおこしましょう。各都道府県の知事・市町村長や職員組合に働きかけましょう。彼らに動いてもらわないと、「自主避難者」を守れません。
私たちは、県内の避難者を守るために、県内の自治体職員や県教組に働きかけます。彼らを説得し立ち上がってもらい、避難者を守ろうと思っています。

一何故国や県は甲状線査縮小・帰還の強制をしようとしているのか

安倍政権は何故、状腺検査縮小・帰還の強制をしようとしているのか。安倍首相は「原発事故は終わった」と原発の再稼働を行い、2020年までに常磐線を開通し、50mSvに及んだ居住制限区域を含めて解除し、高汚染地域に住民を帰そうとしています。
その一環として甲状腺検査縮小もあります。もし甲状腺検査をこのまま続けて小児甲状腺がんが今後も増えていけば、そして県内外の避難者の多くが高汚染地区に帰らなければ、「原発事故が終わった」ことは、嘘だと世界中の人々にも分かってしまいます。そうなれば、安倍首相は「放射能はアンダーコントロール」と言って東京オリンピックを誘致したのですから、2020年に行おうとしている東京オリンピックは出来なくなります。
先に行われた国会では、東京オリンピックのために「共謀罪」は必要だと言い出し、「共謀罪」を成立させました。それだけでなく、2020年には憲法9条の改憲を行うと宣言しました。東京オリンピックを「成功」させることで、改憲まで行おうとしています。
福島原発事故の「収束」こそがすべての鍵なのです。だから、この「被曝と帰還の強制反対署名」運動が全国で爆発し、福島原発事故は終わっていない、これからが本番なのだ、ということが、日本中にそして世界に広まれば、東京オリンピックは出来なくなります。そうなれば安倍政権は終わり、日本が変わります。それを信じて「被曝と帰還の強制反対署名」を行っていきたいと考えています。

№ 22 特別号 「3.12 被曝・医療 福島シンポジウム」 報告集

目 次

〈はじめに〉第2回 被爆・医療 福島 シンポジウムの呼びかけ … 1
第2回シンポジウム実行委員長/ふくしま共同診療所名誉院長 松江寛人

コーディネーターのあいさつ 国分寺市 本町クリニック院長 杉井吉彦… 2

放射性微粒子暴露原因説で解ける銀縛被爆者における健康リスクのパラドックス… 4
――フクシマの皆さまへの提言―― 広島大学原爆放射線医学研究所 大瀧 慈

韓国の原発周辺における疫学調査… 11
前原子力安全委員会委員/反核医師の会運営委員/東国大学医学部教授
キム・イクチュン

いま私たちがしなければならないこと…… 15
放射能から子どもたちを守る全国小児科医ネットワーク代表 山田 真
被爆の強制とたたかいの最前線から ふくしま共同診療所院長 布施幸彦 … 20

会場からの発言 … 24
庄野ファーム 大越良二
国鉄水戸動力車労働組合副委員長 高野安雄

ビデオレター…… 26
核戦争防止国際医師会議 ドイツ支部会長代行 アレックス・ローゼン

質疑応答 …… 27
1 会場から提出された質問書にたいする回答
2 シンポジストの相互討論
3 会場からの質問

〈寄稿〉今、何がフクシマに問われているか …… 33
やまぐちクリニック院長/現代医療を考える会代表 山口研一郎

参加者のご感想…… 35

韓日国際シンポジウム報告
国分寺市 本町クリニック院長 杉井 吉彦… 36

資料 《被爆と帰還の強制反対署名》福島から声を上げよう!
職場・学園・地域で集めよう …… 41


【発行所】 ふくしま共同診療所
〒960-8068 福島県福島市太田町20―7 佐周ビル1 階
(TEL)024-573-9335  (FAX)024-573-9380
(メール)fukukyocli@ark.ocn.ne.jp
【編 集】 本町クリニック事務局
〒185-0012 東京都国分寺市本町2-7-10 エッセンビル2 階
(TEL)042-324-9481  (FAX)042-400-0038
(メール)suzuki@honkuri.com
【頒 価】 650円
(銀行口座) みずほ銀行 国分寺支店
普通 4282013
名義 『被曝・医療月報』


ビデオレター

核戦争防止国際医師会議 ドイツ支部会長代行
アレックス・ローゼン

今日は、アレックス・ローゼンと申します。福島の原発事故は6年前のことでした。日本政府と原子力産業は、事故を克服したと信じ込ませようとしています。しかし原発事故は今も続いています。福島県民だけだなく日本全国の人々が原発事故の影響を受けて暮しています。いまなお、10万人以上のもの人々が全国に避難して暮しているのです。
放射能で汚染された故郷に帰れないからです。原子炉内の放射線量は信じられないほど高く、人間が数分以内に死に至る数値です。
2月に福島県立医大が最新のデータを公表しました。この6年間で甲状腺がんが爆発的に増えています。事故の放射能で直接的に引き起こされた病気です。184人の子どもが甲状腺がんと診断されています。145人が手術を受けました。そして甲状腺がんが摘出されたのです。38人の子どもたちは、まだ手術待ちの状態です。
ここ2年間で見ると10万人に8.1人の割合で甲状腺がんが発症しています。しかし、通常日本では10万人に対して0.3人です。つまり、27倍になるのです。今後、この数は激増すると考えられます。
原子力産業は、これをスクリーニング効果のせいだと主張しています。しかし、2年前の検査で異常がなかった子どもにも甲状腺がんが次々と見つかっています。検査を行っている福島県立医大は最早中立的な科学機関とはいえません。IAEAから資金援助を受けているからです。IAEAは核エネルギー開発のための機関です。福島県立医大の緑川教授は、県内の学校を回って出前授業を行い「意味のないがん検診」は拒否できると説明し、検査の縮小を狙っています。これは、原発事故の影響を過小評価しようと意図しているからです。政府と原子力村が強く後押ししています。
事故で汚染されたゴミの問題も深刻化しています。汚染土壌は福島県内にあふれかえり日本全体にとって重大な問題になっています。核のゴミをどう処理すべきか、解決策がないからです。南相馬市などで実証実験が行われ公共工事に使用される土砂の放射能汚染の基準を1キロ当り3000~8000ベクレルへ引上げました。道路や防波堤などの公共工事にこれを適用することは、住民に新たな放射能被害をもたらすばかりでなく未来の世代と環境に途方もない危険をもたらします。100ベクレルというもとの基準に戻すべきです。
でも、暗い状態の中にも、光があります。福島原発事故後にいくつかの団体が設立され、核エネルギーに反対してクリーンで安全で健康な未来のためにたたかっています。
地元でも福島にふくしま共同診療所があり、いわき市に放射能市民測定所あり、私たちはそれらの活動を支援しています。最近では、日本の著名な医師や科学者たちが、福島原発事故の規模について調査しています。たとえば、岐阜環境医学研究所が日本の子どもたちの乳歯中のストロンチウム濃度の研究をしています。これもIPPNWドイツ支部が強く支援しています。
今日は、お話の機会をいただき、ありがとうございました。本日のシンポジウムの成功をお祈りしています。

あとがき
*シンポジウムでも触れられていますが、「フクシマ」の状況は過酷で悲惨なものです。シンポジウムの開催が、微力ながらも「実状と解明」に一歩でも迫るものとなったと思っています。
*4月1日より「避難指示解除」が反対の行動を無視して強行されました。今こそ「避難・保養・医療」の原則が、福島県民の「命と健康を守る」重要な指針となって行かねばならないと思います。
*今村復興大臣の「自己責任」暴言は、安部政権の意思そのものです。怒りに堪えません
*シンポジウムで語られた「実状と解明」は国際的事業です。ドイツ、台湾に続いて韓日の人々がまさに「共同」して、原発廃絶に向かって進まねばならないと思います。
*シンポジウムに協力・協賛していただいた皆さんに、深く感謝・御礼申し上げますとともに
この報告集を活用していただけるよう願ってやみません。