被曝・診療 月報 第19号

今こそ、小児甲状腺エコー検査の充実を!

ふくしま共同診療所院長 布施幸彦

① 検討委員会の縮小=廃止方針に県民から異議

本年7月3日の福島県小児科医会総会で「甲状腺検査事業においては被ばくの影響とは考えにくいものの、‥・多数の甲状腺がんが発見されており健康不安の一因となっており、…子どもの健康を守り、不安を軽減する」ために、検査や治療の現状を縮小の方向で再検討するべき、とした声明を採択し県に要望した。それを受けて、検討委員会の北斗座長は「9月にも、甲状腺検査の対象者縮小や検査方法の見直しを視野に入れた議論に着手する」と福島民友新聞社の取材に明らかにし、
(1)18歳を超えた県民を今後も検査対象にするべきか
(2)受けない選択を難しくしているとの指摘がある学校での集団検診の方法を改めるべきか
―などの論点について議論を始めるとみられた。
しかし、「3.11甲状腺がん家族会」の「過剰検診のデメリットはない、規模の拡充を」の申し入れや「甲状腺検査の縮小」に反対する多くの県民の声が県に寄せられた。9月14日に行われた県民健康調査検討委員会では、県民の声に押された検討委員会の委員の多くが「今後も少なくとも10年は継続すべき」と主張したため、今回は見送りとなったが、星座長は「検査の在り方について今後も議論を進める」と検査の縮小の議論を継続することを表明した。

② 甲状腺がんの検診・手術は必要である

しかし実際には甲状腺検査の縮小の動きはすでに始まっている。昨年の小児科医会の声明で、「甲状腺検査の必要性、メリットならびに考えられるデメリット両面についての受診者(保護者)への十分な説明を徹底することと、それらを明記した同意書を取得すること」を要望したが、その同意書の取得が4月から行われている。「同意しません」にチェックを入れた人には、県立医大は受診案内を追加で送らないようにした。同意書の説明とあわせて「甲状腺検査は必ず受診しなければならないのでしょうか」と題したQ&Aの中で、検査は拒否できるということを強調している。
福島県立医大の緑川早苗准教授は昨年から学校で子ども向けの出前授業を始めているが、そこで「がんが見つかったら嫌だと思う人は、甲状腺検査を受けない意思も尊重されます」と話している。国際学会で緑川氏は同意書に関して「同意20%、同意しない5%、残り75%は返事がない。この75%は消極的に検査を希望しない可能性がある」とも発言し、無回答者を強引に検査拒否に含めようとている。
75%が回答しないのは、「放射能の影響は無い」という立場をとる県の検診にたいし、県民が強い不信感を持っていることが前提にある。大人でも健康診断でがんが見つかるのは嫌に決まっている。しかし肺がん検診や成人病検診が奨励されているのは、がんを早期に発見し早期に治療するためだ。小児甲状腺がんは予後が良いから見つけなくて良い、治療しなくて良い、と誰が決めたのだ。医学書にそう書いてあるのか。予後が良いからと言っても放置すればがんで亡くなる子供たちが出てくる。だから県立医大の鈴木員一教授は135人も小児甲状腺がんの手術を行った。それを過剰治療というなら、鈴木教授は「傷害罪」で逮捕されても仕方がない。

③ 甲状腺がんの多発は、放射能の影響による

県や小児科医会は何故甲状腺検査を縮小しようとしているのか。
その理由は県が「放射能の影響ではない」と信じているからだ。昨年4月に県の健康調査課の主幹と話した時に、主幹は「県はUNSCEAR報告を信頼しており小児甲状腺がんの多発は放射能汚染の影響ではない」という立場。それに対して診療所は「放射能汚染によるという立場」と述べた。しかし岡山大学の津田教授をはじめ全国4の医療者は「小児甲状腺がんの多発は放射能によると」と判断している人も多い。日本だけでなく海外の医療者もそう考えている人が多い。
10月21日付けの北海道新聞に、甲状腺検査評価部会長で検討委員会委員の清水一雄氏(日本甲状腺学会前理事長)が部会長を辞任する、という記事が載った。清水氏は検討委員会が3月にまとめた「放射線の影響とは考えにくい」との中間報告に疑問を感じ、「多発しているのは間違いない…考えにくいのではなく、まだわからない…放射能の影響を考慮に入れながら慎重に検査すべき」と述べ、部会長を止めて部会員・検討委員として自分の意見を言っていくという。甲状腺の専門家の検討員でさえ「放射能による」と思い始めている。

④甲状腺がん検診を拡充しよう

水俣病も長らくチッソによる有機水銀が原因ではなく、風上病だと考えられ放置されたために、被害が拡大した。その負の歴史を繰り返してはならない。疑わしいならそれに慎重に対処し、検査を継続すべきだ。それこそが命を守ること。それこそが県や国がすべきこと。
最近、大人の甲状腺がんが増えているという報告も出ているという報告も出ている。私の友人も甲状腺がんになった。このような状況で甲状腺検査を縮小するなど以ての外だ、 10月13日の県議会で郡山市の市民団体が請願した「甲状腺検査の維持」が全会一致で採択された。県民の意思は縮小ではなく拡充だということがはっきり示された。それを受けて県立医大も甲状腺検査を奨励すべきで、大人を含め誰でも何時でも受けられような体制を構築すべきだ。

この号の内容

 2県民健康調査検討委員会による検査の縮小=廃止策動を許さない
 3県民健康調査検討委員会を傍聴して
 4 10.20福島県への申し入れ文・怒りの大行動
 5講演会・福島の現状
 6チェルノブイリと福島のデータの誤解を招く比較

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